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トルコが利上げして日本株が買われた理由

久保田博幸金融アナリスト

2014年1月29日、日本時間の朝7時にトルコ中央銀行は臨時会合の結果を発表した。主要政策金利となる1週間物レポ金利を4.5%から10%に引き上げ、翌日物貸出金利は7.75%から12%に、翌日物借入金利は3.5%から8%に引き上げられた。これを受けて29日の東京株式市場は寄り付きから大きく上昇し、東京株式市場はほぼ全面高となった。

このコメントを見て違和感を覚えることがない人は、金融市場に関わっている人がそれに関心を持っている人であろうか。ここにきての金融市場を取り巻く情勢に関する情報が入っていなければ、何故、トルコの中央銀行が利上げして、日本株が買われるのか、その理由について皆目見当が付かないのではなかろうか。

かなり昔の話ではあるが、米国のミシシッピー川の水位が低下しているというだけで、日本国債が売られたことがあった。この理由について想像が付くであろうか。当時の日本の債券市場は米国債の動向と非常に連動性が高かった。その米国債はインフレに敏感になっており、インフレを示す代表的な指標としてCRBという指標が注目されていた。そのCRBインデックスは穀物相場に比重が大きくかけられていた。穀物相場は天候等に左右されやすい。アメリカの穀倉地帯はミシシッピー沿岸であり、そのミシシッピー川の水位が低下しているということは、雨が降らずに水不足ということを意味している。そのために穀物の収穫量が落ちる、そしてCRBインデックスが上昇し、米国債が売られ、日本の債券も売られるといった、まさに風が吹けば桶屋が儲かる的な発想だったのである。

このような背景を理解できないと、今回のトルコの利上げによる日本株上昇の理由がわからなくなる。先週23日に発表された1月の中国製造業PMI速報値が前月から低下したことをきっかけに、東京市場で円高株安が進んだ。昨年末あたりまで欧州の信用不安の後退をひとつのきっかけとしての欧米の景気回復やFRBのテーパリング開始の決定などに市場参加者の目が向いていた。しかし、今年に入り市場はあらたな材料を模索するようになり、そこで目をつけられたのが新興国の動向となった。テーパリング開始で新興国からの資金が引き揚げられるとの連想も働き、財政に問題を抱えるアルゼンチン、政情不安などの問題を抱えるトルコが狙われ、さらに中国のシャドーバンキングの問題も浮上した。これらを受けてリスクオフの動きが仕掛けられた。外為市場では円やスイスフランが買われ、日米欧の株式市場は大幅に下落、米債やドイツの国債などは買われたが、ギリシャやスペインなどの国債は売られた。

このリスクオフの動きを加速させたものとして、トルコ中央銀行の動向が材料視された。トルコは政府の汚職スキャンダルなどもあり、政情不安が市場に不安を与えるなか、トルコ・リアが急落。トルコ中央銀行は23日に為替市場で2年ぶりの直接介入を実施したものの下げ止まらず、むしろトルコ中央銀行の先週の会合での金利据え置き決定がひとつの要因となり、27日の外為市場でトルコ・リラは最安値を更新した。その後、トルコ中央銀行が緊急の金融政策決定会合を28日に開催すると発表し、この発表を受けて利上げ観測が強まり、リラは急反発した。

そのトルコ中銀の利上げが発表されたのが、29日の朝7時となり、利上げ幅は市場の予想を大きく超えており、大胆な異次元利上げとなった。これを受けて、すでに買い戻されていたトルコ・リラがさらに上昇し、リスクオフのムードが一変し、円やスイスフランは下落し、すでに米国株式市場も反発していたことも手伝い、29日の東京株式市場は買いが先行して始まったというわけである。

市場の動きを理解するためには、このようにそれまでの流れを掴んでおくことが重要であるとともに、市場参加者は何に注目しているのか、その感応度も意識しておかないと、このような動きは理解できなくなる。だからマーケットは面白い。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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