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都銀が8か月連続で国債を売り越した理由

久保田博幸金融アナリスト

20日に日本証券業協会が発表した11月の公社債投資家別売買高(除く短期証券)によると、4月から10月まで売り越しとなっていた都市銀行は11月も9754億円の売り越しとなっていた。10月の3兆236億円の売り越しほど大きくはなかったものの、売り越しは異次元緩和決定の4月以来、8か月連続となる。ほかの投資家、地銀や信託銀行、信金、生保などは皆ほぼ買い越しなのだが、いったいメガバンクの売り越しはいつまで続くのか。それとともに何故、売り越しとなっているのかも気になるところ。

国債の投資家別売買高から内訳をみると、都市銀行は超長期債を713億円の売り越し、長期債を1319億円売り越し、中期債を7499億円の売り越していた。中期債を主体に超長期、長期も売り越し。

11月の都銀の国債の売買高(除く短期)は11兆149億円と10兆円以上ある。5月に3.5兆円程度に落ち込んでいたが、9月以降は10兆円以上の売買高があり、売買を行いながら残高も落としつつある。

都銀の売り越しは、日銀の異次元緩和に協力しているとの見方がある。国債を結果として日銀に売却する格好となり、日銀の当座預金残高の増加に寄与しているが、それでは地銀や信託銀行は日銀の異次元緩和に非協力的ということなのであろうか。そうではなく、都銀は日銀の異次元緩和に協力しているというより、結果としてそうなっていると見ないとこのあたりの説明がつかない。

日銀の異次元緩和による大胆な国債買入の分は、どこかがその分を負担せざるを得ない。都銀は他の収益機会も意識した上で、残存2年程度の利回りが0.1%以下であることから、日銀の当座預金の超過準備に付く利子(付利)も0.1%であることを考えれば、短めの国債を当座預金にシフトしても収益はさほど変わらない。残存を落とした分はデュレーション(平均残存年数)を多少伸ばすことで、ある程度の利回りも確保しようとしているのではないかと予想される。

他の投資家の11月の売買状況を確認すると、買い越しの最大手は9月の信託銀行に変わり地銀となっており、7389億円の買い越し。内訳は超長期債を937億円売り越していたが、長期債を2723億円、中期債を3554億円買い越していた。引き続き地方債なども買い越しになっていたと思われる。都銀の売り越しに対して、地銀の買い越しは債券運用以外の収益チャンスが都銀よりは少ないことも要因か。ある程度、債券で運用せざるを得ないことで、残高も増加させていることが考えられる。

信託銀行は6854億円の買い越し。超長期債を1841億円買い越し、長期債を512億円売り越し、中期債を4571億円買い越しとなっていた。次に生損保が5790億円の買い越し。超長期債を4938億円買い越し、長期債1098億円売り越し、 中期債575億円買い越し。

信金が5006億円買い越し、投資信託が4101億円買い越し、農林系金融機関が3964億円買い越しとなっていた。信金は長期債主体、投資信託は中期債主体、農林系金融機関は超長期債と中期債主体に買い越しとなっていた。

参考までに国債の投資家別売買高(一覧)を基に、投資家全体の売買高の状況を確認してみたところ、7月は国債合計(短期債と割引債除く)で126兆9632億円となっていたが、8月は140兆円1549億円、9月は156兆1005億円、10月も149兆7425億円、11月は131兆5400億円と異次元緩和以前の水準に回復してきている。板付き等はさておき、日銀の異次元緩和による国債市場の流動性の低下はこの売買高を見る限り解消しつつある。都銀の残高の減少は国債市場の流動性の低下が要因ではないと思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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