金融政策の難しさ
11月19日のバーナンキFRB議長のワシントンでの講演内容がFRBのサイトにアップされた。このなかでバーナンキ議長は「金融政策がより正常な状態に戻るにはいくらか時間がかかりそうだ」と指摘し、イエレン副議長が14日の米上院公聴会で述べた内容に同意するとした。2013年内でのテーパリングの可能性は残すものの、あくまで経済状況次第という面もあり、これによりバーナンキ議長の就任中のテーパリング開始の可能性はいったん後退した。ただし、テーパリングに関し具体的な言及は避けており、経済状況を睨みながら2014年中に量的緩和を終了させるとの見方は継続していた。
20日に発表された10月29~30日開催のFOMC議事要旨のなかで、多くのメンバーはここ数回の会合において、月額850億ドルで実施している債券購入の規模を縮小する可能性があるとの認識を示していたことが明らかになった。バーナンキ議長は任期中における出口への道筋をつけることをかなり意識していると思われる。
それはさておき、19日のバーナンキ議長の講演では、金融政策をクルマの運転に例えている。経済実態に沿ってブレーキを踏んだりアクセルを踏んだりする。ただし、その操作は2つの理由で困難を伴うと指摘している。ひとつはすぐに効果が現れないという点である。四半期や数年かかることもあり、金融政策を決定するドライバーは目先のことにとらわれずに、先を見て運転をする必要がある。さらに金融政策の効果は、足下の金融政策よりも、先々の金融政策の行方を睨んだ市場の予想(期待)に依存する。つまり、金融政策の決定は目先に拘らずに、先を見て行動する必要があり、さらに市場は今後の金融政策の行方を睨んで動くことで、その見通しに対してどのように示唆を行うのかも重要となる。
FRBは軸足を非伝統的手段からフォワードルッキングに移行させようとしているが、そのフォワードルッキング政策にも難しさがある。足下ではなく先を見て金融政策を行いたくても、市場では足下景気の動向をみて、金融政策への期待を強めることがある。期待感で市場が先に動いてしまった場合に、中央銀行が期待に応えないと市場にダメージを与えることもある。市場に先々の金融政策について織り込もうとして、たとえばテーパリング開始を示唆すると、市場は先に過剰反応してしまうことがあり、これでむしろ金融政策をやりづらくさせることもある。市場とのコミュニケーションの難しさについても、バーナンキ議長の講演では指摘している。だからこそ、今回FRBは事前のイエレン氏などの発言で慎重さをにじませることでバランスを取りに来た。
金融政策とはそもそもエンジンそのものではない。あくまでブレーキやアクセルの役目である。現実としてはそれよりもショックアブソーバーであったり、エアバッグの役割と言った方が適切ではなかろうか。あくまで景気や物価の過熱や冷え込みを抑えるというのが本来の役割であろうし、そもそも金融政策で物価や雇用を直接動かすことは現実的には無理がある。FRBはデュアルマンデードとして物価と雇用の安定を計ることを目的としているが、金利をどの程度下げれば、失業率が何%低下するとか、国債を何兆円買えば物価が何%上がるとかの方程式があるわけではない。日銀の異次元緩和も国債を買えばいろいろな経路、特に期待に期待して物価は上がるとかのひとつの見方を実験しているが、目標が達成できるという保証があるわけではない。このあたりに金融政策の限界というか難しさがあると思われる。