寄せては返す、ヘッジファンドの日本売り
ヘッジファンドはかつて何度も日本国債の空売りを仕掛けてきた。この空売りというのは主に先物取引などのデリバティブを使って売り仕掛けをしてきたものである。海外投資家による日本国債(除く短期債)の保有比率は4.4%に過ぎない(2013年6月末現在)。しかし、東証に上場している長期国債先物の売買シェアは40%近くあるのである(2012年)。
海外ヘッジファンドは日本の財政悪化を意識して、1998年あたりからここ15年以上にわたり長期国債先物やスワップ取引などを主体に売り仕掛けを行ってきたとみられる。しかし、その売りはことごとく失敗しており、買い戻しを余儀なくされ損失を被ってきた。それでも寄せては返す波の如く、損失を被って撤退したヘッジファンドに変わってまた新たなヘッジファンドが日本国債をショートするという状況が続いた。ヘッジファンドは日本国債が暴落するぞと叫びながら売るものの、結局は暴落は起きなかったことから、これをみて国内の債券市場参加者からはオオカミ少年とも比喩されてきた。
たとえばリーマン・ショックのあともヘッジファンドが、ブラック・スワン・ファンドと呼ばれるファンドで日本国債をショート(空売り)して大きな損失を出したとされている。また、昨年11月のアベノミクスの登場でも海外ヘッジファンドは再び売り仕掛けをしていたようである。4月4日の日銀の異次元緩和を受けて国債が大きく買われ、長期金利が0.315%まで低下したのは、このように日本国債を売っていたヘッジファンドの買い戻しが原動力であったとの見方もあった。そこに待ってましたとばかりに、メガバンクによる利益確定売りが入り、今度は0.630%まで当日中に利回りが上昇したのである。
このように何度も痛い目にあっていながらも、ヘッジファンドは懲りずに日本国債の売りを続けている。ヘイマン・キャピタル・マネジメントの創業者、カイル・バス氏は、日経ヴェリタスとのインタピューで、 「私は国債バブルの崩壊が今後18カ月以内に起きるとにらんでいます。詳しいことはお話しできません。しかし、日本の長期金利の上昇と為替の円安に備えたポジションをすでにとっています」とコメントしている。
さらに10月2日のNHKニュースによると、ロンドンに拠点を置き、150億円の資金を運用するヘッジファンド「オードリー・キャピタル・アドバイザーズ」は、日本国債の下落などを見込んで、おととし、日本国債や日本の円を売り、値下がりしたところを買い戻して利益を得る「日本売りファンド」を設立したという。ファンドの運用責任者、クリス・リグ氏は、「日本はデフレから脱却できなければ財政を維持することができなくなる」と述べ、日本のデフレ脱却に向けた動きを注視しながら、今後も日本国債の下落を見込んで「日本売り」を続ける考えを示した(NHKニュース)。
今年4月の日銀の異次元緩和は確かに日本国債にとってはひとつのエポックメーキングといえるものであった。日銀が国債を大量に買い入れることは国債の需給にとっては、買い要因であるが、それがリフレ政策であるがために財政ファイナンスと捉えかねないものであった。4月以降のメガバンクの国債残高の縮小は、2003年のVARショックの経験を生かしたものであるとともに、そのあたりを意識したものであった可能性がある。しかし、日本の長期金利は依然として低位安定しており、日本国債売りが儲かるような状況ではない。それでも日本の財政問題がいずれ金融市場で大きなテーマとして出てくる可能性はある。ただし、それがいつどのようなかたちで起きるかは誰も予測はできない。