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日本の財政の分岐点となった過去のオリンピック自国開催

久保田博幸金融アナリスト

2020年の夏季オリンピック開催地を決める国際オリンピック委員会総会の9月7日の開催まで11日に迫った。東京、マドリード、イスタンブールの3都市が名乗りを上げ、現在は東京、マドリードの一騎打ちとの見方となっているようだが、かなりの接戦とも伝えられている。

東京でオリンピックが開催されたのは1964年(昭和39年)であるが、実はその前に1940年(昭和15年)に東京でオリンピックが開催されることが予定されていたことをご存じであろうか。このオリンピックは日中戦争の拡大などにより東京は開催権を返上し、未開催となった。

この幻のオリンピックが決定したのが1936年7月31日であった。この東京でのオリンピック開催が決定される数か月前の1936年2月26日に起きたのが2・26事件であり、高橋是清蔵相が軍部により暗殺されたのである。

拙著『聞け! 是清の警告 アベノミクスが学ぶべき「出口」の教訓』(すばる舎)では、高橋財政とアベノミクスの共通項をいくつか指摘した。世界的な恐慌、デフレ、震災などの共通項を指摘したが、どうやらこのオリンピック招致も共通項であった。

オリンピック招致は国が行うものではなく都市が行うものであるが、もしオリンピック招致が決まれば国が動く。昭和39年の東京オリンピックに向けては、国内で大規模なインフラ整備が急ピッチで行われた。東海道新幹線、東名高速道路、首都高、東京モノレール、青山通り等々である。現在はこれらのインフラの老朽化も問題化している。

東京オリンピックに向けてのインフラ整備等の反動が昭和40年不況を呼び、戦後初の国債発行に繋がった。実は過去のオリンピックの国内開催は、すべて日本の財政面で大きな転換の年となっていた。

札幌で冬季オリンピックが開催された1972年は日本列島改造論が出た事に加え、福祉元年と言われた年となった。その後のオイルショックも加わり、高度成長から低成長時代に移るとともに、一般歳出に占める社会保障費を増加させるきっかけともなった。

そして、長野で冬季オリンピックが開催されたのが1998年である。日本では不良債権問題が大きくクローズアップされ、11月にはムーディーズによる日本国債の格下げがあり、年末には運用部ショックもあった。このあたりから日本の財政が急速に悪化した。

このオリンピック招致が高橋財政時に行われていたということは興味深い。軍拡が背景にあったが、当時の産業は中小企業中心のものから重化学工業に移りつつあった。産業構造が変わり、高橋財政により景気そのものも回復し、オリンピックが招致できる下地となっていた。当時のオリンピック招致には高橋財政によるデフレからの脱却も大きく関係していたと思われる。

アベノミクスを打ち出した安倍政権は4年前の民主党政権時とは異なり、自ら陣頭に立って招致活動を行っている。安倍首相の外遊の多さの背景には、このオリンピック招致も関係しているとされている。

9月7日にどのような決定が下されるのか。もし東京に決まったとなれば、2020年が日本の財政にとり転換の年となる可能性が高い。1940年の東京オリンピックは幻に終わったがその後日本ではハイパーインフレを迎えた。1964年の東京オリンピックは戦後の財政の転換の年となり、1972年の札幌オリンピックは財政悪化のきっかけとなり、それが加速したのが1998年の長野オリンピックあたりからとなる。

参考までに、政府は次回東京でオリンピックが開催されるかもしれない2020年度までに、プライマリーバランスを黒字化することを国際公約としている。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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