カーニー総裁登場で変化したイングランド銀行の金融政策
7月4日のイングランド銀行(BOE)の金融政策委員会(MPC)では、全員一致で政策の現状維持を決めていたことが17日に公表された議事録で明らかになった。今年に入ってからのMPCでは、キング前総裁が量的緩和の枠拡大を提案するものの、多数派の委員がそれを退けるという状況が続いていた。今回はマイルズ委員とフィッシャー委員も前月まで続けた購入枠拡大の主張を取り下げている。
7月31日・8月1日に開催される次回会合では、インフレ・レポートと同時に、何らかのフォワード・ガイダンスを導入するとしている。フォワード・ガイダンスとは時間軸政策とも呼ばれ、将来の政策金利などについて事前に示唆することにより、市場の期待に働きかけようとする、中央銀行の市場とのコミュニケーション手段である。
日銀は1999年2月の最初のゼロ金利政策を導入した際には「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢になるまで」ゼロ金利を継続し、2001年3月に量的緩和策を導入した際には、「コアCPIの前年比上昇率が安定的にゼロ%以上になるまで」量的緩和政策を継続するとしていた。このようにフォワード・ガイダンスとは、何かしらの指標等を目安に現在の緩和策を維持するとし、より長い金利の低下に働きかけようとする手段である。FRBもインフレ率の見通しが2.5%を超えない範囲において、米失業率が6.5%程度で安定するまで事実上のゼロ金利を継続する方針を表明しており、これもフォワード・ガイダンスとなる。
7月4日にはECBも政策の軸足をフォワード・ガイダンスに移すことを表明していた。これまでECBは、金利に関して予断を持たず、形式上は事前に将来の金融政策についてコミットしないという方針を貫いてきたが、BOEも同様であった。
BOEの現在の金融政策を確認してみると、政策金利であるオフィシャル・バンク・レート(準備預金金利)は0.5%と史上最低水準が維持されている。2009年3月以降は資産購入プログラムと呼ばれる量的緩和策を実施し、その枠は3750億ポンドまで拡大されたが、現在はそれを使い切っており、このため追加緩和策としてキング前総裁などはその枠の拡大を提案していたのである。
日本では白川総裁から黒田総裁に代わり、リフレ政策に転じたがその際も金融政策については全員一致となっていた。キング総裁からカーニー総裁に代わったBOEも政策のスタイル変更があったが、こちらも全員一致となった。
カーニー総裁は就任前に名目GDPターゲットの可能性を示唆していたが、それを採用する可能性は後退している。あくまで独自案のひとつであったものとみられる。
BOEはインフレ・ターゲットを採用しているが、それは現在の日銀が採用しているものよりも柔軟性があり、中期的に物価をターゲットに納めることを目標としている「フレキシブル・インフレ・ターゲット」である。カーニー総裁は、いわゆるリフレ派とは一線を置いており、以前に公聴会のなかで、ヘリコプター・マネーに関して、それをサポートするような戦略には否定的な発言をしていた。日銀で言えば黒田総裁よりも白川前総裁のスタイルに近いとも言えるが、これが欧米の中銀のスタンダードとも言えるものではある。
いずれにしても、イングランド銀行も総裁が代わり、その政策スタイルが変化した。偶然か、何らかの示し合わせがあったのかはわからないが、ECBも同様の政策を取り、欧州の金融政策は歩調を合わせる格好となった。8月のMPCでフォワード・ガイダンスについては、何で縛りをかけてくるのか。このあたりにも今後は注目されそうである。