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債券市場は落ち着きを取り戻したのか

久保田博幸金融アナリスト

4月4日の日銀による異次元緩和以降の日本の債券相場は、過去まれに見る波乱含みの様相となった。これを国債の入札で確認してみたい。

4月11日の30年国債の入札は、最低落札価格105円20銭、平均落札価格106円36銭となり、最低落札価格は予想を下回り、テールも1円16銭と前回の16銭から大きく流れるなど低調な結果となった。応札倍率は3.64倍と前回の3.33倍を上回った。

16日の5年国債は利率が前回の0.1%から0.3%に引き上げられた(回号は110回)。0.3%となるのは昨年4月に入札された103回以来。その入札結果は最低落札価格100円10銭、平均落札価格100円15銭となり、最低落札価格は事前予想を下回り、テールも5銭と前回の1銭から流れた。応札倍率は3.09倍と前回の3.11倍から低下はしたが3倍台は維持。

18日の20年国債の入札は最低落札価格99円45銭、平均落札価格99円66銭となった。最低落札価格は予想をやや下回り、テールも21銭と前回の24銭までではないが、それなりに流れた。応札倍率は3.68倍と前回の3.11倍を上回った。

25日の2年国債(利率0.1%、328回)の入札は、最低落札価格99円94銭5厘、平均落札価格99円94円8厘となり、最低落札価格はほぼ予想通り、テールは3厘と前回の8厘より縮小、応札倍率は5.27倍と前回の5.47倍よりは低下したが5倍台となるなど、順調な結果となった。

5月1日の10年国債(利率0.6%、328回)の入札は、最低落札価格100円00銭、平均落札価格100円02銭となり、最低落札価格はほぼ予想通り、テールは2銭と前回の5銭より縮小、応札倍率も3.71倍と前回の3.22倍を上回り、ますまず順調な結果となった。

これらを見る限りにおいて、債券市場は超長期債主体に流動性低下への懸念が強まっての利回り上昇、中短期債はアンカーとして盤石の基盤が崩れての利回り上昇等が起きてはいたが、入札そのものはまずまず無難にこなしたように思われる。

流動性が後退すると業者もポジションを持ちにくくなるが、それぞれの入札の際の応札倍率はそれなりにしっかりしていた。これはプライマリー・ディーラーを中心にリスクはあるものの応札に応じたところが多かったためと思われる。ただし、その顧客への販売はそれなりに苦労していたとの観測もあった。

投資家もオファーとビッドの大きさに戸惑いながら、さらに異次元緩和で年度の運用計画そのものの変更をせまられて動くに動けない状況にいたためであろう。さらに板が薄いどころか、一時なくなるような状況下、なかなか手が出しにくい面もあったことも事実かと思われる。ただし、国債の入札状況と、その後の債券相場を見る限り、それなりに買い手もある程度は存在していたと思われる。

5月1日の10年国債の入札が注目されたが。これを無難にこなしたことにより、とりあえず債券市場は落ち着きを取り戻したかに見える。ただし、いったん動きが鈍くなった相場が続くと膠着相場が続くように、いったん大きな波乱が起きると、潜在的に動きやすい状況が続く。つまり何かのきっかけで相場が大きく動きだす。そのようなリスクをまだ秘めている。

国債市場を腕力で動かそうとした日銀が、市場にしっぺ返しを食らった格好となったが、それでも入札は淡々とこなしている。しかし、それで市場参加者の不安が後退したわけではないことも確かである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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