VARショックのあった2003年と似た状況に
ここにきての債券市場は超長期債を主体に積極的に買い進まれている。長期国債先物は4日に145円32銭をつけて史上最高値を更新し、5日はさらに記録を塗り替えている。5日に10年国債の利回りは0.6%を割り込み、20年債利回りは1.5%を大きく割り込んできた。国債がコモディティ化したとの意見も出ている。このような状況、そういえばかつてあったような記憶がある。それを今回、思い出してみたい。
2003年3月20日、速水優総裁の任期満了に伴い福井俊彦氏が日本銀行総裁に就任した。就任直後の25日に臨時の金融政策決定会合が開催され、金融政策は全員一致で現状維持としたが、なお書きで、当面、国際政治情勢など不確実性の高い状況が続くとみられることを踏まえ、金融市場の安定確保に万全を期すため、必要に応じ、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行うとした。決定会合のあと通常の政策委員会を開催し、銀行保有株買取枠を2兆円から3兆円に拡大している。
4月30日の決定会合では当座預金残高の目標値を、17~22兆円程度から22~27兆円程度に引き上げ、5月20日の決定会合では27~30兆円程度に引き上げたのである。このように福井総裁に代わってから、日銀の当座預金残高目標の引き上げは数度にわたって行われ、2004年1月には当座預金残高目標が30~35兆円程度にまで引き上げられた。福井総裁のこの積極的な緩和姿勢を市場は好感した。
2003年5月のりそな銀行に対する資本注入によって、大手銀行は潰さないといった意識が強まり、その結果、株式市場では銀行株などが買われ、海外投資家の買いなどにより、日経平均株価は2003年4月の7607.88円がバブル崩壊後の安値となり底打ちした。米国や中国などの経済成長などを背景に、日本の景気も徐々に回復し始め、日銀の積極的な追加緩和も加わり、その後上昇基調を強めたのである。
6月までは債券相場は1日あたりの値幅も限られながらも、じりじりと高値を更新し続けた。6月11日に30年債が0.960%、20年債0.745%、そして10年債0.430%とそれぞれ過去最低利回りを記録したのである。
この相場上昇過程において、目立ったのが都市銀行の一角や地銀を含めた銀行主体の債券買いであった。銀行などがポジションのリスク管理に使っているバリュー・アット・リスク(VAR)の仕組み上、変動値幅が少ないことでそのリスク許容度がかなり広がりをみせていた。株価の低迷にともなって債券での収益拡大の狙いもあり、必要以上にポジションを積み上げ、異常なほどの超低金利を演出した。
これはいわゆる債券バブルに近いものとなり、6月17日日経平均株価が9000円台を回復し、この日実施された20年国債の利率が1%割れのクーポンとなり、大手投資家などが超長期国債の購入を手控えたことが明らかになったことをきっかけに、債券相場は急落したのである。これがのちにVARショックと呼ばれた債券相場の急落である。
これをもって、もうすぐ国債は急落すると指摘したいわけではない。ただし、そのような危険性についても念のため気に掛ける必要があると言いたいのである。2003年の債券相場もまさに売り材料が見つからないような状況にあったが、それは日銀総裁が交代してからの積極的な追加緩和策に、大手銀行がそれに乗って相場を作り上げた格好となっていた。
今回も日銀総裁の交代に絡んでの積極的な金融緩和への期待から、超長期債などの利回り低下が大きなものとなっている。2003年も株式相場は底打ちしていた。さらに円高修正による株高となっており、株と債券ともに買われるという状況も似ている。
今後の債券相場がどうなるのかは予測が難しい。しかし、このような過去の事例を振り返ることも必要だと思う。当時とは国債の発行量も残高も大きく異なり、イールドカーブの形状も異なっている。ただし、相場の地合は当時と似ている。水準等関係なく買いが入っているような状況であり、何事も行き過ぎはのちに反動を招くことになる。そのあたりの注意がそろそろ必要になってきたのではなかろうか。