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大阪府市首長ダブル選に躍り出た女性コンビ。「住民とともに大阪をアップデート」は有権者に響くか

幸田泉ジャーナリスト、作家
谷口真由美さん(右)と北野妙子さん(左)=2023年2月8日、筆者撮影

 今年春の大阪府市首長ダブル選挙に政党の推薦や公認を受けない「市民派候補」が登場した。大阪では2011年末から、地域政党「大阪維新の会」(国政政党は「日本維新の会」)が、大阪府知事と大阪市長の椅子を押さえる「維新体制」が続いてきた。次の選挙で維新候補の対抗馬が注目されていたが、2月8日、「アップデートおおさか」(代表、西村貞一・サクラクレパスHD社長)なる団体が記者会見し、府知事選、大阪市長選ともに女性候補を擁立すると発表した。

 府知事選には法学者で大阪芸術大学客員准教授の谷口真由美さん(47)、大阪市長選には大阪市議(自民党)の北野妙子さん(64)の女性コンビが、「アップデートおおさか」の候補だ。2月8日、大阪市内で「アップデートおおさか」の設立記者会見が行われ、会見の後半、谷口さんと北野さんが登場した。

 谷口さんは「地方自治の本旨は住民自治。住民が作り上げるもので、不参加の住民がいるのはよくない。住民のみなさんの意見を聞きたいし、少数意見も取り残さずにやっていく」と述べ、北野さんは「鳥の目、虫の目に加え、象の耳を持ちたい。市民の力を結集して大阪のポテンシャルをもっと生かした街づくりをしていく」と、2人そろって住民と協同で作り上げる地方行政への意欲を強調した。北野さんは自民党を離党し、無所属で立候補する。

 谷口さんはヒョウ柄の衣装を身に着けるなど「大阪のおばちゃん」を全面に出したキャラクターでテレビ番組のコメンテーターを務め、大阪では庶民派学者として知られる。

 北野さんは2020年11月に行われた大阪都構想(大阪市廃止・分割)の2度目の住民投票の際、「反対派」の自民党市議団の幹事長として、「推進派」の維新、公明党との戦いの矢面に立った。住民投票結果が反対多数となり、北野さんは「反対運動を率いたマドンナ」と自民党市議ながらリベラル系の間でも評価が高い。

 「大阪維新の会」はマスメディアへの露出で支持を高める路線を取っており、コロナ禍でテレビ出演が激増して全国的に人気が出た吉村洋文・府知事は、2期目を目指し府知事選に出馬する。春の府市首長ダブル選、統一地方選で維新の選挙戦を引っ張る吉村知事に対抗するため、「アップデートおおさか」は知名度と好感度を重視して候補者選定したことがうかがえる。

「アップデートおおさか」っていったい何!?

「アップデートおおさか」の設立と府市首長ダブル選挙に擁立する候補者の記者会見には、マスメディアが詰めかけ、関心の高さをうかがわせた=2023年2月8日、大阪市中央区で、筆者撮影
「アップデートおおさか」の設立と府市首長ダブル選挙に擁立する候補者の記者会見には、マスメディアが詰めかけ、関心の高さをうかがわせた=2023年2月8日、大阪市中央区で、筆者撮影

 「アップデートおおさか」は、今年1月10日に政治団体の届け出をした出来立てほやほやの団体だ。母体となったのは、2020年11月の2度目の大阪都構想の住民投票の時に「大阪市廃止反対」の立場で連合系の労組などが中心になって作った政治団体「リアルオーサカ」(代表、田中誠太・前八尾市長)である。大阪都構想は「大阪維新の会」の看板政策であり、2015年と2020年の2度の住民投票でいずれも「反対多数」となったが、維新政治が続く限り、大阪都構想はいつでも復活する可能性はある。大阪市が廃止、分割の危機から脱出し、安定して発展を目指す状況を作るため、リアルオーサカは住民投票後も存続して大阪の政権交代への下準備をすることになった。

 1年ほど前、リアルオーサカの関係者は「保守系との連携が必要」との考えから自民党大阪府連に接触。この春の府市ダブル首長選挙に向けて協議が続けられてきた。2015年と2019年の府市首長ダブル選挙は、いずれも維新VS自民の対決となり、維新候補が圧勝している。2023年春の選挙もこの構図では維新の勝利は目に見えており、候補者が見つかるかどうかさえ危うい。政党の推薦や公認を受けない「市民派候補」を擁立して選挙戦を維新VS市民の形にし、政党は後方支援に回る――という道が模索された。

 「アップデートおおさか」は春の府市首長ダブル選挙で市民派候補が乗る神輿として作られた。2月8日の記者会見で配布された資料では「市民と政治をつなぐ円卓会議(ラウンドテーブル)を開く」とし、一般市民に参加を呼び掛けている。関係者によると、「アップデートおおさか」はまず谷口、北野両名の当選を目指すが、当選した暁には、市民意見を政策に反映させる役割を担う団体になるという。

設立会見で維新への攻撃は封印

記者会見する「アップデートおおさか」のメンバーと選挙で擁立する候補者。前列右端が西村貞一代表、前列左端が小西禎一・事務局長=2023年2月8日、大阪市中央区で、筆者撮影
記者会見する「アップデートおおさか」のメンバーと選挙で擁立する候補者。前列右端が西村貞一代表、前列左端が小西禎一・事務局長=2023年2月8日、大阪市中央区で、筆者撮影

 2月8日の設立記者会見で「アップデートおおさか」の西村貞一代表は「大阪の現政権、府政、市政は頑張っておられる、良くやっておられると感じている」と、維新の吉村知事や松井一郎・大阪市長を評価。その上で「経済では、リーマンショックの後、(回復が遅れた)大阪のウエートが相対的に下がっている。コロナでは東京より多い8000人を超える死者を出した。大阪をより良くする、今の上をいく政策をやっていくために頑張らせていただきたい」と述べた。

 「アップデートおおさか」の事務局長は小西禎一・元大阪府副知事。2019年の府知事選に自民党候補として出馬し、吉村知事に惨敗した。吉村知事と松井市長が大阪湾岸の埋め立て地「夢洲」(大阪市此花区)に誘致しようとしているIR(カジノを含む統合型リゾート)に反対する活動もしており、維新政治には決して賛同していないはずだが、記者会見では対決姿勢を避けた。「報道では『アップデートおおさか』に『非維新』という言葉が使われているが、維新と非維新の対立構造で府民に選択を迫るのではなく、もう一度、地方自治の原点に立ち戻って住民自らが地域の政治や行政を作っていく。『アップデートおおさか』はそのプラットフォーム」と設立趣旨を説明した。

 「大阪維新の会」は2010年の結党以来、既成政党の議員や公務員を「既得権益」と攻撃し、「税金をむさぼる既得権益と戦う志士」を標榜してきた。小泉純一郎・元首相が「自民党の守旧派」と徹底的に対立して人気を博したのと同様、維新も果敢な戦闘姿勢が支持を集めて今日に至る。

 「アップデートおおさか」は、大阪で十数年続く維新のバトル型政治の土俵に乗らない選挙戦を展開しようとしている。府知事選、大阪市長選ともに女性候補を擁立したのにもその意図が見えるが、この作戦が有権者にどう受け止められるのかは、当然ながらまだ分からない。記者会見で繰り返し登場した「住民自治」という言葉も大半の一般市民はピンとこないだろうし、「市民と政治のラウンドテーブル」はさらに分かりづらい。

 一方で、過去の大阪府知事選、大阪市長選では、泡沫候補はともかく、政権交代を目指す候補を政党ではなく団体が擁立するのは異例だ。政党の推薦や公認がなければ選挙費用も政党からは出ず、資金面でも「アップデートおおさか」の候補者2人はかなりの覚悟をしての出馬である。この「女性の市民派候補」という新しさが有権者に響き、今、維新がつかんでいる無党派層の票の流れを変えることは十分あり得る。

「人の不幸の上に成り立つカジノはいらない」と街頭で訴える辰巳孝太郎さん。正面からカジノ誘致に反対を訴えて大阪府知事選に立候補する=2023年2月4日、大阪市中央区で、筆者撮影
「人の不幸の上に成り立つカジノはいらない」と街頭で訴える辰巳孝太郎さん。正面からカジノ誘致に反対を訴えて大阪府知事選に立候補する=2023年2月4日、大阪市中央区で、筆者撮影

 大阪府知事選には、吉村知事が出馬す十ほか、今年1月に元共産党参議院議員の辰巳孝太郎さん(46)が「カジノ反対」を明確に掲げて立候補を表明した。大阪の目下最大の課題は、大阪湾岸の人工島「夢洲」(大阪市此花区)で2029年に開業を目指すIR計画が、「IRとは名ばかりのほぼカジノ」になっていることであり、この「ほぼカジノ」を誘致するのに大阪市が公金を投入することだ。「アップデートおおさか」は保守系からリベラル系まで幅広く支持を集めようとしているが、保守系にはIR待望論もあり、選挙戦でIR問題を有権者にどう訴えていくのか注目される。

ジャーナリスト、作家

大阪府出身。立命館大学理工学部卒。元全国紙記者。2014年からフリーランス。2015年、新聞販売現場の暗部を暴いたノンフィクションノベル「小説 新聞社販売局」(講談社)を上梓。現在は大阪市在住で、大阪の公共政策に関する問題を発信中。大阪市立の高校22校を大阪府に無償譲渡するのに差し止めを求めた住民訴訟の原告で、2022年5月、経緯をまとめた「大阪市の教育と財産を守れ!」(ISN出版)を出版。

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