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13年越し悲願の「総合取引所」誕生 市場関係者の期待と不安

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

日本取引所グループ(JPX)は7月27日、貴金属とゴム、農産物の取引を東京商品取引所から大阪取引所に移管した。商品先物取引と証券デリバティブを一体で取り扱う「総合取引所」が始動している。

「総合取引所」の狙いは、日本市場の国際競争力の強化だ。世界の取引所は、証券と商品のデリバティブを一元的に取り扱うのが主流であり、日本のみが証券と商品を区別して取り扱う状態を続けると、市場の地盤沈下が進みかねないとの懸念がある。世界では証券と同様に商品デリバティブ市場の拡大が進んでいるが、日本では勧誘規制強化などの影響で逆に市場の縮小が続き、東京商品取引所は連続の赤字で市場の存続が危ぶまれる状況になっていた。

政府の経済財政改革の基本方針では、2007年の段階で取引所の「総合的に幅広い品ぞろえ」を明記していたが、監督官庁の権限争いなどの影響もあり、実現には10年以上の歳月が必要とされた。しかし、今後は大阪取引所において日経平均先物などと金をはじめとした商品先物を同じ口座で取引できる環境が整備されることになり、投資家にとっては大きなメリットが生まれる。値動きの異なる株と商品のデリバティブを機動的に取り扱うことができれば、利便性は増す。日経平均先物と金先物を組み合わせた売買なども可能になる。

また、既に2019年1月にはJPXが東京商品取引所を子会社化しているが、「総合取引所」によって信用性や流動性の向上が実現すれば、海外投資家のマネーを呼び込むことで、商品先物のみならず証券も含めた日本のデリバティブ市場全体の活性化も期待できることになる。商品先物は世界各国で国際的な取引が行われているため、各国市場との裁定取引(アービトラージ)といった新たな投資ニーズの創出も期待されている。

国内の商品先物の売買高は過去15年で5分の1以下にまで落ち込み、市場関係者の間では遅過ぎたといった声もあることは事実である。原油などエネルギー先物は従来通りに東京商品取引所で取引が行われるため、「総合取引所」でも商品先物の主力である原油が取り扱えないことに対して、批判や不満の声はある。また、厳しい勧誘規制には変化がないため、総合取引所によって直ちに国内商品先物が活性化し、日本市場全体の成長加速につながるのかは不透明感もある。

しかし、これまで取引規模が縮小し、地盤沈下が進む一方だった商品先物は、「総合取引所」のスタートによって大きな転換期を迎えている。日本からの商品指標価格の発信、ヘッジや投資の場の提供に留まらず、日本のデリバティブ市場全体の底上げのきっかけになり得る動きとして、市場関係者の期待は高まっている。

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(画像出所)筆者作成

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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