不安は現実化するのか、1,300ドルにトライする金価格

(ペイレスイメージズ/アフロ)

安全資産の代表格である金価格が堅調に推移している。国際指標となるCOMEX金先物相場の場合だと、5月9日の1オンス=1,214.30ドルをボトムに、直近の6月6日終値は1,297.50ドルに達しており、昨年11月の米大統領選でトランプ氏優勢が伝わり始めた当時以来の1,300ドル台乗せを見据えた動きになっている。

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4月23日と5月7日に行われたフランス大統領選で、マーケットが警戒していた極右候補・ルペン大統領の誕生が回避されたことを受けて、4月下旬から5月上旬にかけての金相場は1,200ドル割れも見据えた軟調地合になっていた。しかし、ここにきて安全資産としての金に対する投資ニーズの高まりが報告されており、昨年の米大統領選以来の高値水準に到達している。

背景にあるのは、政治経済の双方にわたる投資リスクの存在である。代表的なものを列挙するだけで、1)サウジアラビアとカタールの国交断絶に伴う中東地区の地政学的リスクの高まり、2)コミー前米連邦捜査局(FBI)長官の議会証言に伴う米政治の混乱、3)イギリスの議会選挙によるイギリス政治の混乱、4)欧州中央銀行(ECB)理事会の不確実性、5)米連邦公開市場委員会(FOMC)の不確実性などが存在する。

代表的なリスク資産である株式市場に目を向ければ、ダウ工業平均株価は過去最高値2万1,255ドルから下押しされたとはいえ、依然として2万1,000ドル台を維持している。日経平均株価も円高環境ながらも2万円の節目水準を維持しており、投資家がリスク資産の売却傾向を強めている訳ではない。恐怖指数(ボラティリティ指数)をみても、「ロシア・ゲート」問題が浮上した際には一時16.30ポイントに達していたが、6月入りしてからは10ポイント前後の低迷状態が続いている。

このため、最近の金価格上昇は必ずしもリスク資産売り・安全資産買いという教科書的な解説が通用するものではなく、定期市場を中心とした短期投機筋が思惑的に安全資産を物色している影響が大きいと考えている。実際に、中長期投資家の売買が多い金上場投資信託(ETF)に関しては特に投資残高が増えも減りもしない状況が続いており、目立った動きは観測されていない。チャート環境の改善もあって、短期投機筋が仕掛け的に短期の値幅取りを行っているのが現在の金相場だと評価している。

もっとも、上述のように現在のマーケットには数多くの投資リスクが存在することは間違いない。特に、前FBI長官の議会証言をきっかけに「ロシア・ゲート」問題が再燃すると、米政治が経済政策よりもスキャンダル探しとその対応に終始し、投資家の不安心理が増幅される可能性も十分にある。

最近の傾向としては、大きなイベントが通過すると、その結果の如何にかかわらず金価格は一旦調整局面に入る可能性が高い。イギリスの欧州連合(EU)離脱、トランプ米大統領の誕生も、ともにイベント発生前後がピークとなり、その後の金価格は短期筋の手仕舞い売り主導で軟化している。「有事前の金買い」、「有事後の金売り」が、最近の投資傾向である。

ただ、上述のように株価は高値水準を維持してイベントリスクに十分な対応を示していないだけに、不安が現実化した際に本格的なリスク資産売り・安全資産買いが開始されれば、金価格の1,300ドル時代が本格化する可能性も残されていることには注意が要求される。思惑的な短期筋の金投資行動が正当化されるか否か、6月上旬の金価格動向からは目が離せそうにない。