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黒田ショックで円急反発

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

日本銀行の黒田総裁は6月10日午後、衆院財務金融委員会において、実質実効レートでは「ここから更に円安はありそうにない」との認識を示した。この発言を受けて、急激な円安(ドル高)傾向に警戒感が強くなっていた外国為替市場では、円売り(ドル買い)ポジションの整理が加速し、1ドル=124.50円水準で取引されていたドル相場は、一気に2円近くの急激な円高・ドル安方向に振れ、本稿執筆時点では122.80円水準での取引になっている。

今後の金融政策について特に踏み込んだ発言は聞かれなかったが、8日にはオバマ米大統領が「強いドルは問題」と発言したとの仏当局者の発言が報じられていたこともあり(後に米政府は否定)、この発言をきっかけに円買い戻し(ドル手仕舞い売り)の動きが活発化した模様だ。また、9日には国際協力銀行の渡辺総裁が、「130円まではいかない」と発言していたことも、今回の急激な円安・ドル高是正の底流にはありそうだ。

これ以上の円安がないのであれば、追加金融緩和がないとのロジックも成立することになり、円売り是正の動きは日本株売りにも波及している。日経平均株価は大きな値崩れこそなかったが、5月19日から3週間にわたって維持してきた2万円の節目割れを打診する展開になっている。2万円から更に値崩れを起こすリスクが警戒されている。

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■黒田発言のショックは大きいが、一過性か?

通常、日本銀行総裁がここまで為替レートに踏み込んだ発言を行うことは珍しく、マーケットが衝撃を受けたのは当然である。自らの発言のインパクトを読みきれず、このような大きなボラティリティ(相場変動)をもたらす発言を行ってしまったことは、批判されて然るべきである。

もっとも、今回の「更に円安はありそうにない」との発言の前には、実質実効レートでみるととの枕詞(まくらことば)が付いており、単純にこの発言だけで円高・ドル安方向に転換する可能性は低いだろう。

実質実効レートとは、「特定の2通貨間の為替レートをみているだけでは捉えられない、相対的な通貨の実力を測るための総合的な指標です」(日本銀行ウェブサイト)と定義されるように、「対象となる全ての通貨と日本円との間の2通貨間為替レートを、貿易額等で計った相対的な重要度でウエイト付けして集計・算出」(同)される円のインデックスである。

下図が円の実質実効レートとドル/円相場を比較したものになるが、確かに実質実効レートは黒田総裁が「実質実効為替レートでみると、円安になっているのは事実」と発言している通り、歴史的な円安ステージに突入し始めている。

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ただ、円相場は国内要因のみで決まる訳ではない。例えばドル/円相場の場合だと、米国が新規資産購入の停止に続いて利上げに着手すれば、米国サイドの要因に基づく米金利上昇、日米金利差拡大の動きが、円安・ドル高を促すことになるだろう。仮に日本銀行が追加金融緩和といった行動を起こさなくても、米国の金融正常化プロセスに追随しないという不作為だけで、円安・ドル高が促され易い。

そもそも上の表からも分かるように、ドル/円相場は歴史的にみて異常な円安(ドル高)水準という訳でもない。円安・ドル高トレンドの転換には、黒田総裁の口先介入ではなく、金融政策の修正という行動で示すことが要求されよう。

なお日本銀行の佐藤審議委員は同日、最近の円安について「先行きの日米の金利差拡大を織 り込む動きだろう。先般の雇用統計をきっかけとして、市場は米国の出口戦略、利上げのタイミングが若干前倒しになるのではないかという見 方がにわかに強まってきている」、「足元の米国の金融政策に対 する期待と整合的な形で動いている」との見方を示している。

【修正 2015/06/10 23:30】一部、円安と円高の記載が反転していました。お詫びして訂正致します。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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