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【バスケW杯予選】イラン戦快勝の要因は成長力の差。「次世代の象徴」金近廉、20得点鮮烈代表デビュー。

小永吉陽子Basketball Writer
3ポイント6本を含む20得点で代表テビューを飾った金近廉(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

日本の成長がイランの停滞を打破

 96-61――。日本の成長力が停滞しているイランを捉えた。

 2月23日に開催された『FIBAワールドカップ2023 アジア地区予選Window6』のイラン戦において、日本はアジアの強敵であるイランに圧勝した。大量35点もの差をつけて勝利することは予想していなかったが、イランと日本には決定的な違いがあった。選手層の差だ。

 イランの顔ぶれを見ると、218センチの大黒柱、ハメド・ハダディ(37歳)がアキレス腱の負傷によって欠場したことが最大の痛手ではあったが、スタメン5人はここ数年まったく変わらぬいつものメンバー。特にガードとシューター陣が手薄なことは以前から危惧されていたことで、この1年は2人のベテランガードを代表に復帰させるほど台所事情は苦しかった。昨夏に日本で開催した強化試合で大勢の若手が選出されていたように、イランはようやく世代交代に着手したところである。

 対して日本は、河村勇輝に代表されるように、トム・ホーバスヘッドコーチ(HC)が若手育成のディベロップメントキャンプに参加した選手やBリーグで活躍する選手たちにチャンスを与えては強化合宿に招集し、試合のたびに様々な選手を試してきた。イラン戦におけるベンチメンバーのスコアは96点中61点(イランは17得点)も占めており、選手層が厚くなったことを証明していた。

 また、イランには毎回フィジカル面で苦戦していたが、新しい帰化選手のホーキンソン ジョシュや、怪我から復活した渡邉飛勇らリバウンドで貢献できる選手の参戦によりインサイドに厚みが増した。とくに、シュート、パス、ディフェンス、走力と万能性を備えたホーキンソンの存在は大きく、相手に的を絞らせない攻撃は効果的だった。イランは選手層が薄くてもこれまでは経験値でカバーしていたが、日本の成長力が停滞しているイランを飛び越え、新しい風が吹いていることを証明する試合になったのだ。

 そうした新戦力が台頭した中で、勢いある次世代パワーを象徴していたのが、日本代表デビュー戦でチームハイとなる3ポイント6本を含む20得点をあげた19歳の金近廉(かねちか・れん/196センチ/東海大2年)である。2月上旬に行われたディベロップメントキャンプにおいて、3ポイントでアピールした金近は「サイズがあってディフェンス力があるシューターを探していた」というホーバスHCの目に留まり、A代表へと引き上げられた選手だ。

W杯の選考レースに大学生が台頭(写真:小永吉陽子)
W杯の選考レースに大学生が台頭(写真:小永吉陽子)

インカレ制覇で自覚が備わった19歳

 今年の3月で20歳を迎える若き大学2年生に自信と自覚が備わったのは、エース格として活躍し、2年ぶりの日本一に貢献した昨年12月のインカレである。

 白鷗大との決勝では、イラン戦と同じように勝負所で3ポイントを決めて流れを引き寄せ、ディフェンスではジョエル・モンガら各校の留学生とマッチアップをして思うようにプレーさせなかった。決勝で敗れた白鷗大の網野友雄監督は「東海は金近君が5番(インサイド)としてプレーをしているけれど、オフェンスでは外に引き出してプレーをするところに、正直やりづらさがありました」と、金近の万能性を抑えることをポイントの一つとしてあげていたほどだ。

 もともと、金近は関西大北陽高(大阪)時代から身体能力の高さを生かしたオールラウンダーとして活躍。U19代表ではさらにプレーエリアをアウトサイドに広げ、3ポイントを中心に攻めていた。だが、大学ではインサイド寄りのプレーも増えている。敵将の網野監督が金近のことを『5番』と表現したように、東海大の陸川章監督も「今年の東海はカネチ(金近)が『5番』をやっていることがポイント」だと言う。インカレ優勝直後、陸川監督に金近の育成法について質問してみると、そこには将来性を見据えた意図のある起用法が見えてきた。

「今年の東海は5アウトの攻撃をしていて、カネチは3ポイントを中心に攻めています。でもカネチは『5番』なんです。本来の5番ってインサイドの選手じゃないですか。でもカネチはそうじゃなくて、インサイドからアウトサイドに出てきて3ポイントを軽々と打つ。留学生を外に引き出すことでズレを作ってリングへとアタックもできる。だから『アウトサイドの5番』とでも言いましょうか。

 彼には日本代表選手になってほしいし、彼自身もなりたいと思っています。それには、『強いコンタクトプレーでポジショニングをしっかりして留学生を守れないと、海外の選手には勝てないよ』と言っていて、インサイドで粘り強く守ることを求めています。NBAでもドレイモンド・グリーンがそうじゃないですか。インサイドからアウトサイドまで守れてハンドリング力もある。カネチにはそういう選手になってほしいですね」

昨年12月のインカレ決勝では勝負強い3ポイントで優勝に貢献(写真提供:UNIVAS)
昨年12月のインカレ決勝では勝負強い3ポイントで優勝に貢献(写真提供:UNIVAS)

ポテンシャルの高さが光る世代

 早生まれの金近は、高校時代は一つ下の世代を束ねるリーダー格として、U16代表のキャプテンを務めていた。この世代は、新年にチェコで開催していたクリスタル・ボヘミアカップに出場しており、継続的に強化していた世代だ。

 しかし残念なことに、U16とU18のアジア選手権の大会期日と場所がなかなか決まらず、延期を繰り返しているうちにパンデミックの波が押し寄せ、ついには大会が中止となってしまった。それだけではない。学生たちはこの3年間、様々な活動に制限がかかった中でバスケットボールを続けてきた。

 そして、隔離期間を設けながらも開催にこぎつけたのが、FIBAランキングによって出場権を得た2021年のU19ワールドカップである。実戦から遠ざかっていたこともあり、日本は1勝もできずに最下位に終わっているが、それでも、この世代はNCAAでプレーする山﨑一渉(ラドフォード大1年)や、2月のディベロップメントキャンプに招集された小川敦也(筑波大2年/宇都宮ブレックス特別指定選手)らに代表されるように、サイズと機動力を兼ね備えた選手が多く、念願の世界舞台に立てたことは彼らの意識を大きく変えた。日常が戻りつつある今は遅れた分を取り戻すかのごとく、あちこちでポテンシャルの芽が出始めている。

 日本代表のデビュー戦前日、金近はこのように展望を語っていた。

「僕が日本代表を意識し始めたのはU19ワールドカップに出たときからで、そこからもっと上のレベルでプレーしたいと思っていたのですが、こんなに早くにチャンスが巡ってくるとは思いませんでした。ディベロップメントキャンプで3ポイントをよく決めて、トムさん(HC)が求めるシューターとしての役割をこなせたことで、期待を込めて(日本代表に)呼ばれたのだと思います。まだ、技術がうまくなったとは言えないですが、プロの選手と練習したことで自分のスタンダードが上がったと感じるので、コートに立ったら思いっきりやるだけです」

 大学と日本代表では求められる役割こそ違うが、同じ5アウトのシステムを生かすことで、イラン戦ではシュート力を爆発させ、その名を一気に知らしめた。「イランが自分のことを知らずにノーマークの選手だったから」と本人が謙遜していたように、次からはマークが一段と厳しくなることだろう。ただ、手応えをつかんだことも確かで「このチャンスをモノにしてワールドカップの選考に絡みたい」と欲も出てきている。

ディフェンスではフィジカルの強さをつけることが課題(写真:小永吉陽子)
ディフェンスではフィジカルの強さをつけることが課題(写真:小永吉陽子)

どんなシステムでも対応できる選手に

 鮮烈な代表デビューを飾った大学2年生は、将来どのような選手になることを描いているのだろうか。

「自分としてはどういうプレーヤーになりたいというよりは、東海大と日本代表はコンセプトが違うチーム作りなので、どういうシステムでも対応できる選手になりたい。U19ワールドカップで3番(フォワード)として出た時に痛感したのですが、僕よりもサイズも体格も大きな選手とマッチアップしたときに、もっとフィジカルの強さが必要だと思いましたし、スイッチしてセンターにつくこともあったので、インサイドのディフェンス力も必要だと感じました。

 そういう意味では、大学で留学生とマッチアップできることはいい経験ですし、インサイドをやることも無駄ではありません。自分としては、どのチームでも活躍できて、どんなカラーでも染まれるようなオールラウンドプレーヤーになりたいと、最近思うようになりました」と目を輝かす。

 現在の大学生や高校生たちは、パンデミックの影響で実戦の機会が不足しており、さらなる経験値の積み上げは必要だろう。ただ、そんな中でも、今にでも芽が出そうな可能性とサイズを備えた選手が非常に多く、著しい成長で世代交代のときを待ち構えている。金近廉の台頭により、若手の突き上げが始まったことを感じさせたイラン戦だった。

東海大の先輩である西田と河村とともに日本代表のコートに立つ(写真:小永吉陽子)
東海大の先輩である西田と河村とともに日本代表のコートに立つ(写真:小永吉陽子)

■インカレの写真提供:UNIVAS

インカレをはじめとする大学スポーツの視聴は「UNIVAS Plus」へ。https://www.univas.jp/univas-plus/

Basketball Writer

「月刊バスケットボール」「HOOP」のバスケ専門誌編集部を経てフリーのスポーツライターに。ここではバスケの現場で起きていることやバスケに携わる人々を丁寧に綴る場とし、興味を持っているアジアバスケのレポートも発表したい。国内では旧姓で活動、FIBA国際大会ではパスポート名「YOKO TAKEDA」で活動。

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