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3人制バスケを牽引する小松昌弘&落合知也。東京五輪を目指すパイオニアの覚悟

小永吉陽子Basketball Writer
日本の3x3を牽引する小松昌弘(左)落合知也(写真/小永吉陽子)

 6月18日から『FIBA 3x3 ワールドカップ2019』が始まる。メンバーは3x3国内ランキング1位の落合知也と2位の小松昌弘(ともにTOKYO DIME.EXE)に加え、今大会はBリーグから小林大祐(茨城ロボッツ/UTSUNOMIYA BREX.EXE)と保岡龍斗(秋田ノーザンハピネッツ/SEKAIE.EXE)の2人が選出された。

 現在、3人制の代表選考は、男女ともに5人制の選手を加えた中で競争が始まっている。Bリーグ・Wリーグ勢を代表に選出した理由をトーステン・ロイブル ディレクターコーチは「現在は5人制の中から3x3に向いている選手を選出し、3人制の選手とあわせて合宿と試合をする中でトライアウトしているところです。3x3は個人ポイントのランキング制度があり、オリンピックとワールドカップは国内トップ10から2人選出する決まりがあるので、落合と小松は経験ある選手としてリーダーになってもらいたいし、今回の合宿に招集しなかった選手にもチャンスはあります。ただ、時期を見て早めにメンバーを絞っていかなければなりません」と語る。現在はトライアウト期だとはいうものの、オリンピックまであと1年と迫った中では急ピッチで強化を進める必要があり、ポイントを積み上げる意味でも今シーズンは重要な1年となる。

 そんな中で、日本の3x3を牽引するのが落合と小松だ。今回のワールドカップでは急造チームでの参戦になるが、決勝トーナメント進出を果たすべく意欲は高い。3x3を支えるリーダー2人に、現在の3x3を取り巻く状況とワールドカップの抱負を聞いた。

日本の3x3を黎明期からリードしてきたプライドで戦う落合知也(写真/FIBA.com)
日本の3x3を黎明期からリードしてきたプライドで戦う落合知也(写真/FIBA.com)

Tomoya OCHIAI/国内ランキング1位。崇拝するデニス・ロドマンと同じ「WORM(ワーム)」の愛称で親しまれ、FIBAから日本における3x3のアイコンとして紹介されるパイオニア。得点とリバウンド、相手のビッグマンを守るディフェンスなど、すべてのシーンに絡むオールラウンダーぶりが光る。B2に昇格した越谷アルファーズに所属し、チームの理解のもと3x3のステージを中心に活動する。195センチ、1987年生まれ、32歳。

落合知也「第一人者としてのプライドを持ち、リーダーとして日本の3x3を引っ張りたい」

――3x3にBリーグの選手が参入してきた現状をどう捉えていますか?

僕は大歓迎です。これが日本の強化のあるべき姿だと思っています。僕自身、Bリーグにも所属しているから彼らがプロとしてレベルが高いことはわかりますし、ずっと3x3をやってきた選手たちのプライドもわかります。だからこそ、そこで切磋琢磨をすれば刺激しあえるし、レベルは確実に上がります。

ただ、Bリーグの選手たちはクラブの契約による縛りが強いので、ケガのリスクを考えてしまったり、夏のオフシーズンしか活動できないので、そこは懸念しているところです。オリンピックまであと1年しかない中では、どんなに個が強い5人制の選手が参入しても、海外チームと海外で試合をする経験をしないと強くなれません。Bリーガーたちの持て余しているポテンシャルを、3x3にどうはめていくかが今の課題だと思います。

――5人制選手の参入によって競争が激しくなりましたが、メンバーに残る自信はありますか?

Bリーグの選手たちはシュート力が高いですが、負ける気はしないです。3x3は本当に経験が必要な競技なんです。コーチが指示できない中で勝負所をどう攻めるか、ファウルの使い方はどうするか、1日に何試合もある中で試合の間隔をどう使うかなど、細かいことをあげればキリがないですけど、そこの知識と経験は海外ツアーで場数を踏んできたので、自信はすごくあります。

――ここまで言い切れるのは、3x3の第一人者として競技を牽引していく覚悟からでしょうか。

第一人者としてのプライドはあります。オリンピック競技になる前からやってきたので、負けられない思いと、自分が引っ張っていくという覚悟です。やっぱり、オリンピックに出てメダルを獲ることを最大の目標に掲げているので、それに向けて毎日取り組むだけです。

――3x3のシーズン真っ盛りですが、今季の自チーム『TOKYO DIME』(東京ダイム)での手応えはどうですか?

すごくいいシーズンを送れています。今シーズン最初のプロサーキットのアジアパシフィックスーパークエスト(Asia Pacific Super Quest)で優勝したことで、ドーハのワールドツアー(FIBA 3x3 World Tour Doha Masters/4月)とペナンのチャレンジャー(FIBA 3x3 World Tour Penang Challenger/5月)の切符を獲得できました。アジアパシフィックでは、フィリピンのアウェーの中で勝ち切れたのが大きかったです。

ドーハのマスターズは8位、ペナンのチャレンジャーでは初のベスト4になり、かなり手応えがつかめました。チャレンジャーでファイナルに進出すればメキシコでのワールドツアーのチケットが手に入ったのでそこは残念でしたが、あと一歩のところまで見えたことは収穫です。マスターズではノビサド(Novi Sad/セルビア/ツアーランキング2位:6月18日現在)にボコボコにやられましたが、チャレンジャーで再び対戦した時は出足リードして14-21まで対抗できました。ちょっとずつですけど修正して戦うことはできているので、何とかしてヨーロッパのチームに勝ち切りたい。僕たちの次のステップは、今シーズン中にマスターズでベスト8の壁を超えることです。

――3x3ワールドカップの目標を聞かせてください。

僕は2014年の大会から出ていますが、まだ一度も予選ラウンドを突破していないので、決勝トーナメントに進出することが目標です。3x3はメンバーが一人変われば連携や呼吸が変わってきますが、今回は小林と保岡と初めて組むので直前のチェコ合宿でどれだけチームで戦えるようになれるかが重要になります。彼らの良さを引き出してあげながら、どれだけ一つのチームになれるか。そこは新しいチャレンジです。このチームの中では自分が一番経験あるので、声を出してリーダーシップを取っていきたい。

――オリンピックまであと1年。重要な今シーズンをどのようにステップアップしていきたいですか。

TOKYO DIMEとしてプロサーキットに出て結果を残していくことによって、東京オリンピックのメンバーに選出される可能性が高くなると思っています。僕たちが日本で一番いいクラブだと自信を持って言えるし、その一番いいクラブで経験していることを日本代表で出してオリンピックにつなげることが僕の仕事。でも、僕がオリンピックのメンバーに選ばれる保証はないので、これまでと変わりなく、一つ一つの試合や経験を積み上げていくだけです。

「今がいちばんバスケット人生で楽しい」と語る小松昌弘(写真/FIBA.com)
「今がいちばんバスケット人生で楽しい」と語る小松昌弘(写真/FIBA.com)

Masahiro KOMATSU/国内ランキング2位。豊富な経験と知識を持つベテラン選手。ディフェンスで体を張り、相手の嫌がることを仕掛けてチームに流れをもたらす歯車として不可欠な存在であり、大舞台で幾度もノックアウトシュートを決めてきた勝負強さも持つ。仙台高、筑波大と強豪校の主力としてプレーし、U18代表に選出された経験は今に生きている。191センチ、1984年生まれ、35歳。

小松昌弘「3x3も仕事も突っ走る熱意と覚悟で、倒れるまでやります」

――Bリーグ勢が3x3に参入し、代表争いが激しくなった現状をどう考えていますか?

競争は激しくなりますが大歓迎です。競争してこそ日本が強くなります。Bリーグの選手たちが3x3をやれば5人制にも生かせるだろうし、僕ら3x3の選手も自分に足りないものがわかります。

ただ、僕らはBリーグの選手たちには追いつかれることのない環境で試合をしています。TOKYO DIMEでは毎週のようにプロサーキットに出ていて、ヨーロッパのチームを倒すことを目標に動いています。3x3はチーム力が勝負の競技で、それを海外の試合で試さないとわからないことがたくさんあるんです。プロサーキットで勝つことが、個人ポイントの面でも、強化の面でも、日本代表に選ばれることにも近道になるので、TOKYO DIMEの活動を大事にやっていきたいです。

――TOKYO DIMEは今季チャレンジャーでベスト4、マスターズでベスト8と前進していますが、ヨーロッパの強豪にはまだ及ばず。どこに差があるのでしょうか?

阿吽の呼吸と言いますか、チーム力に差があります。これは母校の話になりますが、仙台高校の時のようなチームの連携が僕らはまだ足りません。そこの強さをヨーロッパ勢は圧倒的に持っています。ヨーロッパ勢はスクリーンをかけてもズレが全然できないんですよ。調整されてしまうし、フィジカルも強い。さらにメンタリティもまだまだ追いつけません。だから、プロサーキットに出続けてチームとして結果を出し、積み重ねていくことが重要なんです。

――母校・仙台高の話になりますが、小松選手は佐藤久夫コーチ(現・明成高)のもとでポイントガード(1番)とパワーフォワード(4番)を兼任する選手として活躍しました。191センチのサイズでガードとインサイドを兼任するアイディアは面白く、「ニュータイプ」と呼ばれたことも。当時の経験は今につながっていますか?

めちゃくちゃつながっていますし、役立っています。インサイドで体を張ったり、パスが好きだったのでガードをやったり、状況判断をして臨機応変にやることは今と同じです。それに、仙台は流れを先読みすることを徹底してやるチームなので、今でも頭を使って賢くやることが自分の生きる道になっています。たとえば、相手に悪い状態でシュートを打たせるようなディフェンスを仕掛けたり、ゲームをコントロールしたり。そういったプレーで勝負できるのは高校時代の経験がすごく大きいです。

――小松選手は関東実業団の三井住友銀行でプレーし、社会人バスケから退いたあとは、会社員として働きながら3x3のステージで活動しています。どのように仕事と競技の両立をしているのでしょうか?

それはもう、会社と家族の理解があってこそ。社会人としての自分が大前提にあり、家族と会社、所属部署の理解があって3x3の活動ができるので感謝しかありません。去年までは僕が異常なまでに海外に行っているので驚かれたのですが、「オリンピックを目指せるのは今しかない」と会社に伝えて理解してもらっているので、今では問題なく海外遠征に行けるようになりました。有給と特別休暇をうまく使い、いろいろな面で会社に配慮をしてもらっています。

――仕事と競技の両立、しかも海外遠征が多い生活はハードではないですか?

めちゃめちゃハードですけど、すごく充実していますし、仕事も家庭もあるから頑張れます。試合も仕事も突っ走るからこそ、その熱意が会社に伝わったのだと思いますし、それだけの覚悟を持ってやっています。だから10分の試合を倒れるまで頑張らなきゃいけないです。

――ワールドカップでの戦い方のポイントと目標を聞かせてください。

これまで2度ワールドカップに出ていますが、まだ決勝トーナメントに進出できていません。今回は何としても決勝トーナメントに行くことが目標です。初戦のラトビアはめちゃくちゃ強いですが、それ以外には勝たなければならない立場です。でも、今年のアジアカップを見てもわかるように、メンバーを変えて国際大会に臨むことはすごく難しい。そういった意味では不利な部分もあります。やはり大事なのは出足。最初の3分間でどれだけいい戦い方ができるかでほぼ決まってしまうので、離されずに戦うことです。そのためにもチェコでの合宿がすごく重要になるので、みんなで意見を出し合ってコミュニケーションを取り、僕と落合が引っ張っていきたい。

3x3ワールドカップ2019代表メンバー。左から小松昌弘、保岡龍斗、小林大祐、落合知也(写真/FIBA.com)
3x3ワールドカップ2019代表メンバー。左から小松昌弘、保岡龍斗、小林大祐、落合知也(写真/FIBA.com)
Basketball Writer

「月刊バスケットボール」「HOOP」のバスケ専門誌編集部を経てフリーのスポーツライターに。ここではバスケの現場で起きていることやバスケに携わる人々を丁寧に綴る場とし、興味を持っているアジアバスケのレポートも発表したい。国内では旧姓で活動、FIBA国際大会ではパスポート名「YOKO TAKEDA」で活動。

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