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鎌田、堂安に続き、三笘も森保ジャパン「辞退」。久保建英は参加も、アジア杯に呼び戻すべきか?

小宮良之スポーツライター・小説家
森保ジャパンの招集を受けた久保建英(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

<森保ジャパンは、久保、三笘など欧州組の主力を招集し続けるべきか?>

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/9ff22cb9ab4b3fc486c8423480d09f3c5fed87c3

 10月の代表戦に向け、一本の記事を書いた。

 こうした是非を問う原稿が、賛否で別れるのは健全なことだろう。絶対的な正解はない。一石を投じた、という点で意味はあった。

「コンディション不良」

 森保一監督は、その理由で鎌田大地(ラツィオ)、堂安律(フライブルク)の二人をメンバー外にしたことを明かしたが、実質は「辞退」に近いだろう。なぜなら、二人とも直近の試合には出場。帰国できないほどコンディション不良ではないことは明白だ。

 三笘薫(ブライトン)も「体調不良で日本代表不参加」と報じられている。彼も直近のリバプール戦に先発フル出場。クラブと代表での活動を天秤にかけ、「辞退」の方が筋は通る。

 一方で久保建英(レアル・ソシエダ)は代表参加を選んでいる。本来、彼も「辞退」でおかしくはなかった。過酷な日程での難しい試合が続いて、パワーダウンしているのは危険なサインで…。

 日本に戻った久保は13日にカナダ、17日にチュニジアとの代表戦を控える。その後は19日にスペインに戻って、休む間もなく21日に古巣マジョルカ戦。24日にはCLでベンフィカとの敵地戦に挑む。とんでもないスケジュールだ。

「久保は代表2試合のために3万キロを異動」

 スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティボ』が揶揄するほど、コンディション面は心配だ。

 欧州組と代表の関係性は、見直すべき局面を迎えている。W杯ベスト8以上を目指すなら、親善試合やアジアの弱小国との試合に欧州の有力選手を呼び戻すべきなのか。興行と強化など様々な要素を天秤に乗せる必要がある。

代表活動の意味の変化

「日本代表のためには、負担もやむを得ない。日本代表の選手たちは昔から誇りをかけて戦い、疲労など厭わなかった」

 それは招集肯定派の少なくない意見だろう。ナショナリズムもあるだろうが、代表が日本サッカーを象徴する以上、一つの正論とも言える。「ずっとそうやって、日の丸は重視されてきた」という言い分もあるはずだ。

 しかし例えば25年前、初めてワールドカップに出た時とは事情が違う。当時、欧州組は一人もいなかった。中田英寿が突き抜け、どうにか足掛かりを作ったが、日本人選手は欧州でアウトサイダーだった。代表戦士として、一致団結で日本の誇りを示すしかなかったのだ。

 それが今や代表選手全員が欧州組に近い。すでに書いたように、彼らは異国で日本サッカー、日本代表のブランド向上に貢献。言わば、日々誇りを見せているのだ。

 多くの日本人選手が欧州で毎試合、日の丸を背負う。チャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグ、あるいはイングランド、スペイン、イタリア、ドイツ、フランスのトップリーグで鎬を削る。その価値は高い。

 代表の親善試合で、体力気力を消耗させるべきではないだろう。肉体は限りのある資源のようなもので、永遠ではない。アジアレベルの親善試合など、世界的には誰も興味はないのだ。

 欧州の最前線で戦う選手たちの動向こそ、多くのサッカーファンの注目の的であり、日本代表の親善試合やアジアの弱小国相手の試合以上の価値があるのだ。

それぞれの国の事情を考慮すべき

「他国の代表選手も、同じ日程で代表に尽くしている」

 そんな意見もあるだろう。たしかに、代表日程は世界基準で組まれている。

 ただ、それぞれの国の代表選手が、同じように代表日程で犠牲を余儀なくされているわけではない。欧州の代表選手たちは、基本的に欧州内で代表戦が組まれている。アフリカ諸国も、日本との往復よりは距離は短い。

 そして例えば、今年に入ってブラジル代表はヨーロッパで試合を組んでいる。親善試合で欧州組を勢ぞろいさせていたが、3試合はモロッコのマラケシュ、スペインのバルセロナ、ポルトガルのリスボンでの開催。つまり、欧州圏での試合だ。

 あるいは、ウルグアイ代表は韓国、日本でアジアツアーを敢行しているが、明らかに興行優先だった。代表の主力は限定的にしか呼んでいない。選手のコンディション調整も重視しているのだ。

 そして南米各国はW杯南米予選が熾烈なだけに、そこを勝ち抜くことが、そのままチーム強化に結びついている。主力を欠いた戦いで生き残れるほど甘くはない。その真剣勝負を勝ち抜くことが、選手としてのエネルギーになっているのだ。

欧州遠征は難しい

「日本も欧州で試合をし続けるべき」

 そういう意見もあるだろうが、これは物理的に難しい。

 ヨーロッパの各国は、EURO予選、ネーションズリーグにより、常にお互いで公式戦を組む状況になっている。その合間しか、他の大陸の国はマッチメイクできない。これは日本代表強化において深刻な問題になっている。

 結局は、国内にアフリカや北中米、南米の代表を呼ぶしかない。今回のカナダ、チュニジアは最たるケース。マッチメイクの都合上、仕方ないことだが、格下、もしくは興行と割り切ってくるような相手しかいないのだ。

 だからこそ、日本はJリーグ勢やMLS、Kリーグ、またはベルギーの日本人が大勢いるチームから数人をピックアップした構成で、十分に強化になる。監督のお手並み拝見にもなるし、底上げにもつながるかもしれない。興行的な難しさは出てくるが、そこは「選手ファースト」で折り合いをつける必要があるだろう。

時代の流れに適応できるか

「アジアカップ軽視など言語道断」

 昔のアジアカップは重みがあった。アジアの盟主になることで、アジアで認められた。それは世界への切符にもつながった。

 しかし欧州の最前線でプレーする選手は、違う価値観でプレーしている。もはや、アジアカップの価値は高くはない。CLやELで勝ち進む、あるいはそれぞれの国のリーグ優勝、もしくは来季の欧州カップ出場の方が世界基準ではリスペクトされるし、日本サッカーの価値も高まるのだ。

 スケジュールの問題もある。

 例えば久保が在籍するスペインリーグは、アジアカップが開催される1月中旬から2月上旬には、リーグ戦が水曜にも組まれ、スペイン国王杯の日程もぎっしりと組まれ、週2試合がずっと続く。これをスキップすることがどれだけのダメージになるか。CLを勝ち抜いていた場合、2月には決勝トーナメントが始まるのだ。

 はっきりと言えば、久保に関してはアジアカップ招集などもってのほかだろう。

<欧州で活躍することによって、日本人選手が世界基準で注目され、評価される>

 それが新時代の定理と言える。W杯の価値はまだ高く、W杯アジア最終予選は念には念を入れるべきで、選手も相応の犠牲を払うべきだが…。

 日本代表の興行と強化、そして変りゆく欧州組の実状。そのバランスを見直すべき時に来ている。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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