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森保ジャパンは新時代へ?吉田麻也、長友佑都らが外れ、メンバーが一新したバックラインの意味とは?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

バックライン刷新の意味とは

 今月15日、リスタートを切る森保ジャパンのメンバー26人が発表されている。

「世代交代」

 その色が明瞭に出た格好になった。

 とりわけ、バックラインでの選手の入れ替えが目立っている。吉田麻也、長友佑都、酒井宏樹、権田修一という過去のW杯で主力だった選手たちがメンバー外。一方で、瀬古歩夢、菅原由勢、橋岡大樹が代わりに加わっている。また、初招集は4人だったが、3人がDFの角田涼太朗、半田陸、バングーナガンデ佳史扶となった。

 これだけの変化は、森保一監督の意志の表れだろう。

 ロシアW杯後、森保監督はチームを刷新し、成功を収めた。では今回、バックライン刷新の意味とは?

弱者の兵法からの脱却

 カタールW杯での森保ジャパンは、「弱者の兵法」を用いた徹底したリアクション戦術だった。相手にボールを持たせながら、ハイプレスとリトリートを使い分け、相手のストロングポイントを消すことに重きを置いていた。その中でダメージを最小限にし、カウンターで逆転に成功。W杯優勝国であるドイツ、スペインを撃破したゲームは歴史的だ。

 しかし、ドイツ、スペインが日本を甘く見ていたことで起きた金星であって、残念ながら再現性は低い。

 日本は、「互角に戦う」という主体的なプレーに取り組むべきだろう。自分たちが能動的にボールを動かせるか。そこをどうにかできなかったら、悲願のベスト8は難しいだろう。

 それ故、バックラインの大幅変更は急務だったと言える。

 吉田、長友がいることで、バックラインの設定は自動的に後ろめになっていた。裏にボールを通された場合、単純にスピードの不安があった。結果、5−4−1という守備ブロックを作って、「堅守カウンター」をベースにしていたわけだが…。

日本のストロングポイントを生かすために

 鎌田大地、久保建英、堂安律など攻撃陣にとっては、かなり忍耐が求められた戦いだっただろう。守備のタスクが多く、消耗戦の駒のような扱いで、敵陣内でボールを持つ時間は限られていた。それぞれ欧州カップ戦でも攻撃センスを発揮しているにもかかわらず、本領発揮の機会は数えるほどだった。

 三笘薫のようなウィングをウィングバックで使うのも、悪い冗談のようだった。三笘はブライトンで、世界的選手を相手に脅威になっている。一人で「戦術」になるほどの選手を、ウィングバックというアップダウンが基本の「労働者」として使うのは、宝の持ち腐れだ。

 日本人の強味である「俊敏性と技術をコンビネーションで掛け合わせた機動力」を発揮するには、敵陣で長くプレーする必要があった。初招集の中村敬斗も、今や欧州リーグで引く手数多で、他にも好選手は少なくない。チャレンジができるだけの人材は台頭しつつある。久保がリーガエスパニョーラでも上位のレアル・ソシエダで頭角を表したように、攻撃的な布陣・コンセプトのチームなら、日本人は欧州でもトップレベルの攻撃を牽引できるのだ。

 森保監督はどこかのタイミングで、攻撃的な方向へ舵を切るべきだろう。

 さもなければ、前途は明るくない。

古橋、旗手を使いこなして欲しい

 一方で攻撃へのアプローチについて言えば、セルティックの古橋亨梧、旗手怜央を外したのはシンプルに残念だった。古橋は今シーズン20点以上を記録しているし、旗手も主力としてチームを牽引している。

「リーグのレベル」

 森保監督は、そこを落選理由に挙げたが、どうも腑に落ちない。

 スコットランドリーグのレベルは、ベルギーリーグよりもやや落ちるくらいだが、Jリーグよりも下なのか。百歩譲ってそうだとして、セルティックは今シーズン、チャンピオンズリーグにも出場していたクラブである。クラブ規模としては、欧州の名門である。敗れたとはいえ、レアル・マドリードと堂々と戦い、地力の高さを見せつけていた。

 そもそも、森保監督は同じセルティックの前田大然を選出しているだけに、整合性は取れない。

 結局のところ、森保監督は古橋、旗手を使い切るだけの方策を見つけられていないのだろう。彼らを招集できなかったことは、単刀直入に言って、好みが逸脱してしまっている感があり、公平性の点で懸念される。二人はクラブで目覚ましい成果を上げているだけに…。

 バックラインの革新の意味を大胆に出すためにも、新たな攻撃のバリエーションにトライしてほしかった。

バックラインの構成

 ともあれ、森保ジャパンは新たなスタートを切る。バックラインはどのような構成になるか。板倉滉、冨安が中心になるはずだったが、すでに誤算が出ている。冨安が怪我で代表参加が危ぶまれているのだ。

 4バックか、3バックか。それは数字の羅列に過ぎないが、三笘のウィングバックなどは推奨できない。それだけに左サイドバックに誰を抜擢するのか、注目されるだろう。

 特筆すべきは、左利きの選手を多く選出した点にある。伊藤洋輝、角田、バングーナガンデの3人をどう使うか。瀬古も左センターバックを得意とする。個人的にはバックラインは左から角田、瀬古、板倉、菅原を推すが、現時点では未知数。右サイドはまだ酒井が必要になるタイミングはありそうだが、半田も面白いし、3バックの場合、橋岡が入る可能性もあるだろう。三笘を生かす場合、冨安を左サイドバックに起用するのも一つの手だったが…。

 組み合わせが注目される。森保ジャパンは24日にウルグアイ、28日にコロンビアと対戦する。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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