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森保ジャパンの弱点。カタールW杯後、「ベスト8」へのリスタートで求められるレフティたち

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

左を制する者は世界を制す

<左を制する者は世界を制す>

 ボクシング界には、そんな言い回しがあるという。左ジャブという基本的な技をしっかり身につけることが、王者への近道になる。つまり、右利きの選手にとっての「左」なのだが…。

 サッカーでは違った意味で、左を制する者は世界を制す、という言葉が当てはまる。11人対11人の競技で、やはり左利きの選手は欠かせない。王者に君臨するのは、左利きに導かれたチームである。

 2大会連続でワールドカップファイナリストのフランス代表は、代表的だろう。カタールW杯決勝先発メンバーで、ユーゴ・ロリス、テオ・エルナンデス、アドリアン・ラビオ、アントワーヌ・グリーズマン、オリビエ・ジルーの5人が左利きだった。ウスマンヌ・デンベレは体内に右利きと左利きが混ざった真の両利きで、半数以上の6名が左利きに等しい。

 カタールW杯王者であるアルゼンチン代表は、そこまで左利きが多くなかった。しかし左サイドバックは二人とも左利き。アクセントをつけたのは、”左利きの魔法使い”アンヘル・ディ・マリアだった。何より、大黒柱は「神の左足」を持つリオネル・メッシだ。

 翻って、カタールW杯の日本代表は26人のメンバーでも、久保建英、堂安律、伊藤洋輝と左利きは3人だけだった。先発は久保か、堂安の1人だけ。彼らも、与えられた時間は限られ…。

 今年3月、リスタートする森保ジャパンだが、要所にレフティを配置することが、チームとしての奥行きを高めることになるのではないか?

左利きのメリット

「同じ力量だったら、左利きを選ぶべき」

 欧州や南米では、スカウティングの段階から左利き選手を重視している。1チームで、少なくとも3人は左利きを配置。左サイドバックは、ほとんど例外なくレフティだ。

 左利きが要所に配置されることで、多くのアドバンテージが生まれる。

 単純な話、左利きが左サイドにいれば、それだけ大きく幅が取れる。特にバックラインでは、内側にボールを晒さず、リスクも回避できる。左サイドバック、左センターバックが左利き優先になるのは当然だ。

 また、中盤に左利きがいることで、ボールが流れる渦に変化が生まれる。左利きは、左巻きの攻撃を生み出しやすい。右利き選手は、体を開かずに配球できる右方向へのパスが多くなる一方、左利きは意図せずとも左へのパスが多くなる。カットインしてから左でファーサイドへダイアゴナルのパスが通すと、ゴールに直結。メッシが得意とするパターンだ。

 サイドやトップのアタッカーに左利きがいると、相手の虚を突き、裏をかける。ディフェンスは右利きに対しては対峙する機会が多いだけに、相応の対処法を身に付けているが、左利きとの対峙は絶対的に少ない。そこで、ほんのわずかだが対応が遅れるのだろう。ミリ単位、コンマ単位の話だが、この点で左利きは優位に立てるのだ。

 特に、攻撃的コンセプトのチームは、右利きだけでトップレベルでは成立しない。意外性も、バリエーションも足りなくなる。プレーが単調になってしまうのだ。

 例えば久保が在籍するレアル・ソシエダは、ダビド・シルバ、ブライス・メンデス、ミケル・メリーノ、アレクサンダー・セルロト、ミケル・オジャルサバル、そして久保と攻撃陣の全員が左利きであることもしばしば。独特の感性が結集したコンビネーションこそが、堅牢な守備も突破できる。まさに、左を制する者は世界を制す、だ。

 久保は単独よりも、堂安やレフティたちと同じピッチに立つことで輝きを増すだろう。

森保ジャパンにおける左利き

 一方、徹底したリアクション戦術を採用している場合、利き足はそこまで重要ではない。それ以上に、献身性や単純な肉体的な速さや強さの方が問われる。門を守る兵士として、どこまで体を張れるか。

 その意味では、左利き特有のメリットは乏しい。

「守りありき」

 それを信条とする森保ジャパンに左利きが少ないのも、必然と言えるだろう。

 そもそも、日本人選手で左利きは多くはない。Jリーグを見ても、一目瞭然。左利きを育てる文化もないからだろう。

 しかし、日本代表の目標である「W杯ベスト8」に辿り着くには、「弱者の兵法」では限界がある。耐えて守って、一発で勝つことはできても、再現性は低い。それがベスト16という壁を作っているのだろう。上位進出には、主体的に戦える時間を増やす必要があるはずで、そこでアクセントを加えられるのはレフティだ。

 日本はまず、左サイドバックに左利きを確保することが急務だろう。横浜F・マリノスの永戸勝也、サガン鳥栖の中野伸哉は有望か。ハダースフィールド・タウンの中山雄太も、アキレス腱のケガからの回復次第だが…。

 このポジションに左利きが少ないのは、明らかに日本サッカーの弱点と言える。

 現実的には、左サイドバックは右利きがオプションになる。冨安健洋(アーセナル)をエース封じで用いたり、旗手怜央(セルティック)を攻撃的に使ったり、あるいは佐々木旭(川崎フロンターレ)を抜擢したり、右利きのサイドバックの方が目途は立つ。三笘薫の力を最大限に引き出すことを考えた場合、冨安が最も計算できるが…。

 左利きの選択肢を捨てるべきではない。

レフティの将来投資

 サイドバックだけでなく、ボランチも、センターバックも、左利きは多くはないが、アタッカーに関しては一定数、人材が出て来ている。中村俊輔、本田圭佑など最たる例。二人は、それぞれ独自の感性でチームを動かした。

 現代表の久保、堂安も同様だが、さらなるレフティの台頭も望まれる。それがチームの気運も高める。将来投資も含めて必要だ。

 その点、川村拓夢(サンフレッチェ広島)、角田涼太朗(横浜FⅯ)、西川潤(サガン鳥栖)、杉山直宏(ガンバ大阪)は有望な左利きと言えるだろう。欧州では、小林友希(セルティック)も一つの可能性だ。

 今回の代表に推薦するには時期尚早だが、FC東京の18歳、熊田直紀はレフティFWとして突出している。左足でボールを叩くインパクトやタイミングは、左利きストライカーにしかないもので、かつて「ドラゴン」の異名を取った久保竜彦を想起させる。いわゆる規格外の気配が漂っているが…。

 レフティの発掘は、W杯ベスト8への挑戦課題の一環とするべきだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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