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バルサとチェルシーで起きた逆転現象。日本代表にもみられる「センターバックがもたらす安定」

小宮良之スポーツライター・小説家
カタールW杯で活躍した3人の日本人センターバック(写真:ロイター/アフロ)

勝利をもたらすポジションと負けないポジション

 チームが勝利するには、どのポジションも綻びになってはいけないし、役割を全うする必要がある。例えばサイドバックは持ち場を守り抜き、局面の有利を全体に行き渡らせるのが仕事だろう。チームのリクエスト次第では、中盤の選手のようにゲームを作り、攻撃の枚数を増やすなど、味方と補完関係を保って攻守でやるべきこともある。

 ポジションに優劣などない。

 ただ、二つのエリア内でのポジションは勝負に直結するだろう。端的に言えば、それはゴールキーパーとストライカーになる。昨シーズン、欧州王者になったレアル・マドリードは「ティボー・クルトワ、カリム・ベンゼマが戦術」と言われたが、エリア内のプレーヤーは、得点失点を司るだけに強化の基本だ。

 次の基礎は中盤で核になれる選手だろう。チームを落ち着かせ、テンポを出し、守備のフィルターになる。攻守を左右するプレーヤーで、ルカ・モドリッチは象徴的だ。

 そして世界トップレベルで最後に勝負を分けるのは、サイドからカットインし、あるいは縦を駆け抜け、試合を決められるような選手か。キリアン・エムバペ、ヴィニシウス・ジュニオール、あるいは三笘薫のような選手か。彼らは拮抗した試合で、決定的な差を作り出せる。

 しかし、チームが負けない、悪い時でも最小限にダメージを抑えられるポジションがある。

 それはセンターバックだ。

センターバックは負けない土台

 今シーズン、FCバルセロナはスペインスーパー杯でレアル・マドリードを決勝で撃破して優勝を飾るなど、最悪だった状態から持ち直しつつある。欧州チャンピオンズリーグではグループリーグで敗退も、リーガエスパニョーラでは巻き返して首位を走る。とにかく、失点数が減った。

 改善の理由として、フランス代表ジュル・クンデ(セビージャ)、デンマーク代表アンドレアス・クリステンセン(チェルシー)という二人のセンターバックを獲得したのが大きいだろう。

 バルサはバックラインに弱点を抱えていた。長年、バルサを支えてきたジェラール・ピケはスピード不足が顕著でラインを上げられなくなって、エリク・ガルシアは単純に守備の強度が低すぎた。そこで新たに補強したクンデはスピードや一対一に優れ、基本技術も高いだけに攻撃の一手にもなれて、クリステンセンは高さ、強さ、それに老練さも出せる。おかげで、ロナウド・アラウホが右サイドバックも含め、真価を発揮できるようになった。

 バルサは負けないだけの安定感を得たことで、自慢の攻撃力も発揮できるようになったのだ。

奪われたチームは四苦八苦

 一方で、主力センターバック二人を奪われたセビージャは昨シーズン4位だったのが嘘のように、残留争いする体たらくである。クンデだけでなく、ジエゴ・カルロスも、アストンビラに取られてしまった。これで守備の安定感が崩壊。すでにジュレン・ロペテギ監督も解任される事態になっている。主力センターバック二人失うと、やはりプレーリズムが狂ってしまうのだ。

 同じく昨シーズン3位のチェルシーも、クリステンセンをバルサ、アントニオ・リュディガーをマドリードに持っていかれて四苦八苦している。トーマス・トゥヘル監督を解任せざるを得ず、新監督を招いて慌てたように冬の移籍マーケットで動いているが、中位に甘んじたまま。開幕当初は優勝も狙っていただけに、大きく期待を裏切る戦いだ。

 センターバックは守備の要であり、実は攻撃も支えている。そこの人材がフィットしないと、チームの調子は簡単に沈む。勝てるべきところで勝てず、引き分けられるのに負けるのだ。

日本代表センターバックの充実

 日本代表がW杯で結果を出せるようになったのも、実はセンターバックの安定が要因だろう。

 カタールW杯では史上最高の陣容で、吉田麻也、冨安健洋、板倉滉という世界レベルの3人のセンターバックが揃った。一人がケガや累積警告などで出場できない試合はあったとしても、どうにかカバーできた。正念場で彼らが体を張ったことによって、攻撃陣も奇跡的に逆転の機会をつかめたのだ。

 それはJリーグでも変わらない。

 昨シーズン、鹿島アントラーズがセンターバック不在で苦しんでいた。有力センターバックを二人、手放してしまい、新たに獲得したキム・ミンテは期待外れで、MF三竿健斗をコンバートせざるを得なかった。各ポジションに好選手を揃えていたにかかわらず、センターバックに堅固さがなかったことで、不安定なまま優勝争いから脱落した。

 今シーズン、復権を目指す鹿島は、センターバックに植田直通、昌子源を補強したが、その目はどう出るか。

 センターバックはチームの浮沈を左右する。「負けない」確率を高め、安定をもたらす。優勝できるか、は別にして。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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