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カタールW杯、森保ジャパンはPKでクロアチアに負けたのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
カタールW杯、クロアチアとのPK戦(写真:ロイター/アフロ)

クロアチア戦はPKが敗退の理由か?

 12月5日、アルジャノブ・スタジアム。カタールW杯決勝トーナメント1回戦、日本代表はクロアチア代表に120分間を戦い、1-1で勝負がつかなかった。PK戦にもつれ込み、南野拓実、三笘薫、吉田麻也の3人が外し、大会から去っている。

 2010年南アフリカW杯でも、日本は決勝トーナメント1回戦でパラグアイにPK戦の末に敗れ、ベスト16の壁を越えられなかった。次々にキックが止められる衝撃は大きい。再びの無念が渦巻いたのだろう。

「PKの練習を日常的にすべきだ!」

「挙手でPKキッカーを決めるのは、準備不足」

「国内リーグの一環で、PKを導入したらどうか」

 日本国内では、そんな議論が活発に飛び交ったという。

 しかし、PKが敗退の理由なのか?

PKは負けではない

 そもそもの話、サッカーにおいてPKは記録上、勝ち負けにならない。どちらでもなく、引き分けと記録される。90分、120分間を戦って決着がつかず、トーナメントで勝ち上がりを決めるため、PK戦が行われるのである。

 つまり、PKはサッカーという試合の外にある行為と言える。

 事実、各国のリーグ戦では一般的に行われていない。W杯や欧州選手権のような国際大会の予選でも同様である。欧州カップでも、決勝以外はホームアウエーの2試合で決着をつけるため、PK戦は珍しい。

 サッカーを好む人で、PK戦を望んでいる人は限られている。なぜなら、それはクジに近いからである。世界最高のリオネル・メッシが外すことがある一方、セミプロレベルの選手が決める。それがPK戦の真実であり、多分に運が作用するのだ。

 率直に言うが、チームとして日々の練習にPKを入れるなどナンセンスである。W杯という限られたトーナメントで、PK戦を想定して決勝トーナメントに挑み、限定的にトレーニングに入れることは推奨されるし、GKは相手のキッカーの特徴を事前に研究すべきだろう。しかし、クラブでの日々の貴重なトレーニングでチームとしてPKに費やす時間は無駄で、たとえ成果があったとしても雀の涙だ。

PKは練習の成果があっても、報われない

 なぜなら、PKは限られたシチュエーションの行為で、上達が難しい。バスケットボールのフリースローの反復練習を喩えにする人もいるが、サッカーのPKはそれを防ごうとするGKを相手に蹴るもので、反復練習では身に付かないのである。GKによって癖も実力も体格も違うし、W杯では各国最高のGKを相手にしなければならない。練習台などいないのだ。

 また、試合自体の緊張状態で、PKは全く違うものになる。たとえ国内リーグに導入しても、W杯で国の威信をかけたプレッシャーを8万人の観客の中で受ける感覚は、どうやっても再現できない。W杯は唯一無二だ。

 繰り返すが、大切なトレーニング時間をPKに使う意味はないに等しい。

 無論、上達はする。PK職人と言われるキッカーや、PKストッパーと言われるGKは誕生する可能性はあるだろう。しかし、時間をかけた割に成果は少ない。「PKが得意」はあくまでプラスアルファで、試合中にPKを取った時にそういうキッカーが一人いれば十分。全員がPKをうまくなるなんて意味のない話だし、時間を費やす価値がない。

三笘で勝負を決めるべきだった

 そもそもクロアチア戦で日本が敗退したのは、PKで「負けた」のではない。120分間で、決着をつけられなかったからである。監督のマネジメントに問題があったし、選手の力量が及ばなかったのだ。

 前半、森保ジャパンは優勢だった。開始早々からショートコーナーから決定機をつかみ、ボールも丹念につなげた。遠藤航から鎌田大地というコンビで、うまくボールを運び、チャンスも作った。吉田麻也、冨安健洋は仕掛けるディフェンスで違いを見せた。攻守一体で大会最高の45分間だった。終了間際、堂安律が入れたボールのこぼれを前田が押し込んで先制に成功した。

 しかし後半はペースが落ちた。守備に綻びが出てしまい、攻撃ではベストプレーヤーの一人だった伊東純也の裏が狙われるようになった。そして後半10分、右サイドからのクロスをファーサイドで伊東がペリシッチに前へ入られ、頭で叩き込まれた。

 森保監督が交代を使ったのは同点にされた後で、完全に後手だった。しかも、的が外れていた。交代出場の浅野はリードした状況では嫌がられる選手だが、タイスコアだと完全に封殺される。酒井宏樹を入れたのは適切だったが、鎌田大地を下げたことでボールが前線で落ち着かなくなった。攻撃が極端にパワーダウンした。早い時間でPK戦を選んだようですらあった。

 これは戦略上、大きな戦術ミスと言える。

 例えば三苫薫という切り札を生かす工夫が合ったら、勝負を決められた。なぜ、彼のような脅威を与えられる選手を攻撃に専念するポジションで使えなかったのか。ウィングバックという半端なポジションに味を占めた結果で、あまりに情けない。単独のドリブルでカットインし、強烈なシュートを打った場面、クロアチアの選手たちが肝を冷やしたはずで…。

PKは誰もが失敗し、成功する

 結果、日本はPKに自信を持つリヴァコビッチとやり合うことになった。PKに持ち込まれた時点で、敗れていた。

「やはり、PKストッパーを作るべき!」

 それは安易な意見である。サッカーの本質を何も捉えていない。PKストッパーが必ずしも素晴らしいGKというわけではない。むしろPKだけは得意、という場合が多いのだ。

 やはり、日本は90分間で相手を倒せる力を身につけるべきだろう。ビッグクラブでプレーする選手が数人出て、底上げを目指す。それにつながるトレーニングに時間を費やすべきだろう。そして監督が、柔軟に兵法を使えるか。その時、どの国も恐れる必要はなくなる。喜ぶべきことに、その近くの領域まで日本サッカーは来ているのだ。

 フランクフルトの鎌田、レアル・ソシエダの久保建英、ブライトンの三笘、フライブルクの堂安律、セルティックの旗手怜央などトップレベルのクラブでプレーする選手に、今後はカスティージャ(レアル・マドリードのセカンドチーム)の中井卓大、バイエルン・ミュンヘンⅡに移籍の福井太智などが加わっていったら、日本サッカーの将来は明るい。

「どうやったらPKがうまくなるか」

 素人の戯言を、現場は真剣に捉えなくていい。

 PKは技術が必要だし、じゃんけんと同じではないだろう。得意な選手はいる。しかし誰もが失敗し、成功する。その真理だけは覚えておくことだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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