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三浦知良、中田英寿、本田圭佑。日本サッカー界を次に引っ張るのは?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

カズ、ヒデ、そして本田

 三浦知良、中田英寿の二人は、日本サッカー界を引っ張っていくだけの存在感があった。それぞれキャラクターは違うが、当時の最先端を突っ走っていた。サッカーがうまい、という枠では収まり切らず、思考の出発点から革命的であり、異端児だった。

 2006年ドイツW杯で惨敗後、中田が現役を電撃的に引退したことで、筆者はスポーツ誌で「ポスト中田を探せ」というインタビュー連載をしている。結局、ポスト中田と言えるようなリーダーは、簡単に見つけ出せるものではなく、たった2回で終わった。当時はサッカー界が大敗北の後の転換期にあり、何かをしたい、という焦りがあったのだ。

 しかし一人だけ明確に「ポスト中田」と言える男がいて、そのインタビュー連載はフライング気味にスタートした。

Sports yeah (著者作成)
Sports yeah (著者作成)

 本田圭佑は、一人異彩を放っていた。当時、本田は名古屋グランパスでも、不安定なプレーをしていたが、野性的で「何をするか分からない」というスケール感が違った。左利きでゴールに対して独特のビジョンが目立ったが、それ以上に野心の塊で、強いエネルギーを放っていた。

 2005年のワールドユースの取材で、本田と話す機会が多かった。彼は開幕戦に出場して以来、ベンチを温めていた。にもかかわらず、試合後には滔々とチームの戦いを語り、「自分ならこう改善できる」と力説した。その話はなんだか興味深く、本来、取材者は試合に出場した選手の話を聞くべきだったのに、思わず惹きつけられてしまった。

 とんでもない選手になるのではないか?

 そう思わせる熱量があった。追いかけてみたくなる浪漫というのか。

―自分が変わる瞬間が来るとすれば?

 件のインタビュー連載で訊いた時、本田は淀みなく答えていた。

「デカい大会でしょうね。人間には節目があると思うし、それで流れを引き寄せれば、俺はもう止まらないんじゃないかな、と思う。突き進んでいく、というか。もちろん、人間ずっと突き進めるもんじゃないし、そんなの虫が良すぎるけど、だからこそ節目はあるんだと思う。まあ、世界のすごい選手は俺みたいにユースで落とされるということはないと思うけど」

 今の本田は、最後の自虐的な表現は決してしないだろう。おそらく、反骨心は燃料にし、焼き尽くしたのだろう。一気に駆け抜け、日本サッカーをけん引した。

本田を超える選手

 しかし、その本田も一つの時代を終える時が来た。

 2014年ブラジルW杯を取材した後、それは明確だった。彼の問題ではない。一つのサイクルだったと言える。その後もしばらくは代表の中心にいたが…。

 2015年、筆者がサガン鳥栖で鎌田大地のプレーを現場で目にした時だった。雷撃のような感覚で、「次の時代の主役だ」と感じた。ワンプレーで十分に伝わるほど、圧倒的なサッカーセンスだった。プレシーズンの段階で、「無名だが、すごい高校生が入ってきた」と所属選手から聞いていたが…。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20150710-00046084

「キャンプでトレーニングマッチを重ねる中、大地(鎌田)に要求するところはたくさんあったんです。でも、一目見て面白い選手だなと思って」

 鳥栖で鎌田をプロデビューさせた森下仁志監督(現・ガンバ大阪ユース監督)は、当時をそう振り返っている。

「当時の鳥栖は尹晶煥監督から長年かけて作ったスタイルがあって、“チームを進化させる”ところが自分に求められていました。そこで、“大地を生かすにはどうしたらいいのか”ってとことん考えながら、キャンプで試合をやるごとに思いは募って、これはなんとかせんとあかんって。デビュー戦、ファーストプレーで30mくらいのスルーパスをトヨ(豊田陽平)に入れたシーンは今でも覚えています。それで彼が(ミドルで)点を入れて引き分けたんですが、改めてすごいな、と思わせてくれました」

 技術的には、18歳だった本田を凌駕していた。キック一つとっても、ヒットするパワーも正確性も規格外だった。プレービジョンも、それを実現する力もすでに身につけていた。そこかな、という周りの予測を簡単に裏切り、逆を取った。相手のタイミングを外すことで翻弄。ボレーの”当て勘”にも優れ、デビュー戦のゴールは相手のクリアをエリア外から直接放り込んだ。

「大地は、これからもっと高いレベルでやれるはずです。もちろん、日本代表としてワールドカップでも…。要求すればするほど、絶対にやれる選手です。鳥栖時代も、言葉を発せずにプレーで見せるタイプというか。『こうやろ?』みたいな感じでなんでもやってのけてしまうはずで」

カタールW杯でも主役となるべき

 鎌田は、時代の旗手として底知れなさを感じさせる。きっかけをつかんだら、彼はもう止まらないだろう。

 昨シーズンは、フランクフルトでヨーロッパリーグ優勝の原動力になった。最近はチャンピオンズリーグでゴールを決める一方、ボランチでも新境地を開きつつある。ビッグクラブを相手にも物おじせず、昨シーズンはFCバルセロナ戦でペドリを封じて勝利を呼び込み、今シーズンも欧州スーパーカップでレアル・マドリードを相手に互角以上の戦いをやってのけている。

 今や風格すら漂う。

 カタールW杯でも主役となるべき選手だ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20220926-00316668

 日本代表を率いる森保一監督は、今年6月まで鎌田をメンバーに入れることすら躊躇っていた。うまく使いこなせず、ポジションを見つけられなかった。おそらく、指揮官の枠組みでW杯を戦い抜くのは難しい。

 しかし鎌田は、ピッチに立ったら自らチームを動かすだけの気風がある。幸運にも、今の代表は欧州で戦う選手が多く、呼吸もかみ合う。久保建英、三笘薫、上田綺世、堂安律、旗手怜央、守田英正、酒井宏樹などとのコンビネーションを生み出すことができたら――。

 鎌田の跡を継ぐほどの十代は、まだ目にしていない。ただ、21歳の久保は時代を背負うタレントを持っている。新しい発見ではないが…。

「度肝を抜く」

 そんな選手が日本サッカーを導くのだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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