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森保監督は「3人の愛息」、長友、柴崎、浅野を外せなかったのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 11月1日、カタールW杯日本代表メンバー26人が発表されている。たとえ誰を選び、選ばなかったにせよ、賛否は避けられない。その点、是非もないだろう。実際、異論が多く出るのは多くて5、6人で、許容範囲とも言えるのだが…。

 議論が収まらないのは、森保一監督の選考に不公平感、違和感が拭いきれない点にあるだろう。

 例えば、森保監督の“愛息”とも言える長友佑都、柴崎岳、浅野拓磨の3人は本当に外せなかったのか?

長友よりも、中山、冨安

 まず、欧州での長いプレーを終え、JリーグのFC東京に復帰した長友は、地力の高さは見せている。欧州遠征でのプレーも、改めて頼もしかった。チームが悪い状態でも、それに引っ張られずに奮闘していた。

 しかし全盛期のプレーからは程遠い。すでに馬力はなく、連続した動きも衰えた。また、サイドバックが毎試合、途中交代では心許ない。

 単純な左サイドバックとしては、左利きでイングランド2部の中山雄太がいる。長友とは全くタイプが違い、高い位置でのクロス、ボールの持ち出し、ヘディングの競り合いでなどで強さを見せる。守備者としては経験も含めると、まだ長友に劣るか。一長一短で同じようなレベルだが、中山の場合、3バックにしたときの左ウィングバックとして価値が出る。その意味ではファーストチョイスになるべきだ。

 3バックにするなら、リベロにはフランクフルトの長谷部誠を選ぶべきだった。負傷中だが、大会には間に合うはずで、これで確実に戦い方が増える。グループリーグ3試合を同じメンツで戦うことは体力的に難しく、理にかなっているはずだが…。

 そしてサイドバックで本当に相手を跳ね返すのを求められるのなら、時限爆弾がついた長友よりも、適役は冨安健洋だ。

 冨安は一人のディフェンダーとして、日本歴代最高の素質だろう。代表ではセンターバックだが、所属するアーセナルでは右サイドバックを担当する一方、エース殺しとして左サイドバックを任されると、完璧にやってのけている。右から酒井宏樹、吉田麻也、板倉滉、そして冨安のバックラインは鉄壁だ。

 左サイドバックの代役としては、ブンデスリーガで経験を重ねる伊藤洋樹も考えられる。実際、テストは受けている。また、ウィングバックとして攻撃的に戦う場合、プレミアリーグ、ブライトンの三笘薫という選択肢もある。

 長友は要るだろうか?

柴崎を拾い、旗手を落とすことに

 スペイン2部レガネスの柴崎は今シーズンも降格圏に低迷するチーム状況で、「勝利のボランチ」になれていない。局面の弱さは依然として致命的である。一本のパスの精度は芸術的レベルだが、五分五分のボールを自分のものにできない。少なくとも、遠藤航の代役としてアンカーのポジションはできないだろう。

 守備面の強度で言えば、同じスペイン2部ウエスカの橋本拳人の方が断然上だ。足が伸びるようなディフェンスでボールを自分のものにできる。今シーズンから挑戦しているスペイン2部の舞台で、昇格をうかがうチームで定位置を確保しているのは、実力の証左だ。

 そしてボランチとしては、セルティックの旗手怜央を強く推す。チャンピオンズリーグでのプレーを見ても、ルカ・モドリッチと渡り合い、得点も決めるなど、著しい成長を見せる。左サイドバックもこなせる旗手は、もともとストライカーで、そのユーティリティ性がボランチとしての輝きを引き出しているのだろう。

 森保監督は旗手を落とし、柴崎を拾ったわけだ。

浅野中心の攻撃

 浅野はスピードが際立つ。しかしボールは収まらず、シューターとしての精度も高いわけではない。それは今シーズン、ブンデスリーガで0得点という深刻な数字からも歴然だ。

 一方で、カウンター型のチームではキーパーソンになり得る。大迫勇也がゴールゲッターとしての怖さがなくなり、得意のポストプレーも対応されやすくなった現状で、FWとしてむしろ主軸になった可能性がある。森保監督が選んだリアクション戦術に合致したのだ。

 森保監督としてはサンフレッチェ広島時代からの子飼いであるだけに、浅野を外す選択肢はなかった。故障明けだが、それも関係ない。キャラクター的には前田大然と被り、二人を招集するのはオーバーブッキング気味だが、特別な選手だ。

 おそらく、攻撃は浅野中心となる。

 相手の裏を走らせ、カウンターで逆襲というプランだろう。ただ、先に失点を許した場合、すぐに破綻する。防御ラインを敷かれてしまったら、打つ手がない。先制が前提になるわけだ。

 その戦術判断で割りを食ったのが、古橋亨梧だろう。

 セルティックの古橋はスコットランドリーグでゴールを量産しているが、欧州遠征で失格の烙印を押されることになった。気の毒なほど、前線で孤立。「周りとの関係が悪く、適応できなかった」という意見もあるが、彼の良さを生かすようなアプローチは一切なかったのである。

森保監督のチーム

 結局のところ、森保監督は「自分のサッカー」から漏れた選手を拾うことはない。

「行雲流水」

 森保監督はメンバー発表で、心境をそう説明した。雲や流れる水のように、深く物事に執着しないで自然の成り行きに任せて行動するたとえだが、そのような変幻は感じさせない。彼は言動は丁寧で真面目だが、極めて頑固だ。

「我慢して守り、カウンター一発」

 完全なる弱者の兵法に行き着いた瞬間、リアクションを狙う戦い方に舵を切った。

 そのための逆算だろう。

 守りはベテランで経験を生かせて、中盤は監督の分身のように献身的に戦い、前線はとにかくスピードがあって身を粉にできる選手が必要だった。優れた選手の素晴らしい能力をどう使い、戦術の幅を広げるか、よりも、監督の戦術に当て込み、そこで実直に仕事ができるか。それを追求した、というか、それに執着するしかなかったのだ。

 3人の招集は、その象徴と言える。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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