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スペインのW杯26人は?ペドリ、ブスケツと豪華布陣も、弱点はL・エンリケ監督の「傲慢さ」

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:ロイター/アフロ)

21人は当確

 カタールW杯に挑むスペイン代表の26人は、すでに骨格が見えた。

「ルイス・エンリケ代表監督の21人は決まり」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』は、そう見出しを打っている。

GK

ウナイ・シモン(ビルバオ)

ダビド・ラヤ(ブレントフォード)

ロベルト・サンチェス(ブライトン)

DF

パウ・トーレス(ビジャレアル)

イニゴ・マルティネス(ビルバオ)

ジョルディ・アルバ(バルセロナ)

エリック・ガルシア(バルセロナ)

ダニエル・カルバハル(レアル・マドリード)

セサル・アスピリクエタ(チェルシー)

エメリク・ラポルト(マンチェスター・シティ)

MF

ガビ(バルセロナ)

セルヒオ・ブスケツ(バルセロナ)

ペドリ(バルセロナ)

マルコス・ジョレンテ(アトレティコ・マドリー)

コケ(アトレティコ・マドリー)

ロドリ(マンチェスター・シティ)

FW

アルバロ・モラタ(ユベントス)

ダニ・オルモ(ライプツィヒ)

パブロ・サラビア(スポルティング)

マルコ・アセンシオ(レアル・マドリード)

フェラン・トーレス(バルセロナ)

 ここまでは、「当確」と言えるだろう。

不確定の要素は二人の主力のコンディション

 GKはダビド・デ・ヘア(マンチェスター・ユナイテッド)、ケパ・アリサバラガ(チェルシー)も有力だが、過去に正GKだっただけに、2番手、3番手では選べない。直近のポルトガル戦のスーパーセーブ連発を見ても、シモンの1番手は盤石だ。

 DFはセンターバックで左利きで人材は多いが、右利きに人材が乏しいのが難点だろう。ディエゴ・ジョレンテ(リーズ)が滑り込む可能性はあるが、ロドリを下げる形でバックアップはめどがつき、基本的にラポルトが右に入る形になるか。サイドバックは右はほぼ決まりだが、左はルイス・ガヤ(バレンシア)、マルコス・アロンソ(バルセロナ)のどちらか。前者が有利だが…。

 MFはこの6人で決まりだが、マルコス・ジョレンテをユーティリティ(右サイドバック、右アタッカー、トップ)と考えた場合、あと一人は入る。ミケル・メリーノ(レアル・ソシエダ)、チアゴ・アルカンタラ(リバプール)、カルロス・ソレール(バレンシア)が候補。中盤は左利きが少ないため、メリーノがピックアップされるかもしれない。

 FWは不確定要素があるが、貢献度と献身性を評価した選考になるだろう。得点力以上に、チームプレーヤーとして戦えるか。ネーションズリーグ、スイス戦ではアセンシオの0トップが象徴的だった。いわゆるポストプレーヤータイプは不遇の状況で、ボルハ・イグレシアス(ベティス)、ジェラール・モレーノ(ビジャレアル)の選考が求められるが…。

 L・エンリケは、ポスト役にはこだわっていないように見える。それよりも、ニコ・ウィリアムス(アスレティック) 、ジェレミー・ピノ(ビジャレアル)のようにスピードの強度が高い選手を好む傾向にある。事実、ニコはポルトガル戦で値千金のアシストで、「L・エンリケの新恋人」と言われる。

 残り5人が不確定なのは、一つ事情がある。

 ミケル・オジャルサバル(レアル・ソシエダ)、アンス・ファティ(バルセロナ)の二人はレギュラー候補だが、コンディション面に懸念がある。オジャルサバルは11月中には復帰予定だが、膝の十字靱帯のケガでW杯はほぼぶっつけ本番になる。また、ファティは若くしてケガが多発し、再発の不安から我慢しながら所属クラブでプレーしているところで、W杯は直前のコンディション次第だ。

 おそらくは二人の状況を見極めるために、メンバー発表はW杯開幕に近い11月10日になったのだろう(日本代表は11月1日発表予定)。

L・エンリケの「物量戦」

 ともあれ、強力な陣容と言える。

 とりわけブスケツ、ペドリの二人は、大会ナンバー1のMF候補だろう。一本のパスでプレーを作り出す。彼らがいることでボールが転がるテンポが良くなる。

 刮目すべきは、選手層の分厚さだ。

 例えばアセンシオはスーパーサブの可能性が高いが、一瞬で敵を奈落の底に突き落とす左足ミドルがある。事実、東京五輪準決勝では日本を沈めるゴールを決めている。件のニコも抜群のスピード、パワーの持ち主で、相手の足が止まったところでスーパーサブ起用が有力だ。

「今のチームにおけるハードワークの要求は高い。例えばFWが90分間、ピッチに立ち続けられないのも必然で、それだけの守備のタスクも担っている」

 L・エンリケは言うが、90分間での「物量戦」にこだわりを感じさせる。

「まず勝つために、トップレベルの選手を自由にプレーさせるべきではない。そこで、ディフェンスは常に前線から始まる。選手には、まるで獣のように攻守にわたって戦うことをリクエストしているよ。その結果、交代選手でうまくいくことはあるが、それは試合を通してプレーしてきた選手が相手を消耗させていたからで、トータルな成功だ」

 事実、L・エンリケ率いるスペインは物量戦で強さを見せる。体力ゲージで最後に残っていた方が勝者というのか。ネーションズリーグで2度、ベスト4に勝ち進み、EURO2020もベスト4、今回のW杯予選も勝ち抜いて、アベレージは高い。

 では、弱点はないのか?

 死角があるとすれば、指揮官であるL・エンリケかもしれない。

敵を作る天才

 L・エンリケは、国内での人気がない。頑固さは筋金入りで、人を惹きつけるユーモアも乏しいので嫌われる。自尊心の強さだろうが、どこか傲岸不遜に映る。

 とくにメディアとの付き合い方は最悪の部類に入り、記者会見は毎回、感情をぶつけ合う。関係性は修復不可能なところまで来ている。

「報道には興味がない。私の方がサッカーをはるかに知っているから」

 会見で見下ろすように言うのだから、衝突は避けられない。しかも、実際には批判報道に怒り、自身のツイッターでわざわざ反論。敵を作る天才だ。

 無論、マスコミにも非はある。

 国内で有力なマスコミはマドリード系で、彼らは利害関係を抱える。マドリードの選手が代表にほとんどいないことは不都合なのである。そこでファンの不満を煽るほうが注目も集める。

「L・エンリケは選手時代にマドリードと遺恨があって、バルサで愛されたから」

 そのベースがあるだけに、騒ぎは鎮まらない。

 特筆すべきは、L・エンリケがその戦争状態に半ば酔っている点だろう。ジョゼ・モウリーニョもそうだったが、いわゆる劇場型。チームを緊張状態に置くことで、カンフル剤を打ち続け、突っ走るのだ。

「騒々しさは、サッカー界において最も美しい」

 自分を取り巻く環境について、L・エンリケは皮肉たっぷりに言う。好戦的姿勢は紙一重。勝ち続けている限りはいいが、負けると一気にネガティブな状況になる。

 L・エンリケはとにかく独自路線が好きで、トレーニングも異色に映る。クラブで監督をしていたころから、足場を組んだ台の上から見守り、拡声器を使って指示を出していた。最近はトランシーバーを使用。代表選手一人一人の背中に受信機を装着させ、紅白戦でも随時、指示を送る。

 合理的アプローチではあるのだが、メディアは冷ややかに揶揄し…。

 2010年南アフリカW杯でスペインが世界王者になった時、ビセンテ・デルボスケ監督はマスコミと良好な関係を保っていた。チームはとても健全だった。それが爆発力を生み出したのだが…。

 今回のスペインは一皮むくと盤石ではない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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