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鎌田、久保の活躍の裏に見えた戦術的欠陥。森保ジャパンのW杯メンバー26人の行方は?

小宮良之スポーツライター・小説家
鎌田、久保は存在感を示した(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

低調な欧州遠征

 9月の欧州遠征、日本代表はアメリカ(〇2-0)、エクアドル(△0-0)と1勝1分けに終わっている。無失点で負けなし。結果だけで言えば、W杯出場国を相手に好成績だ。

 しかし内容は乏しかった。アメリカ戦は相手の組み立ての力が弱く、プレスがはまって何度もカウンターを繰り出し、勝利をすることができたが、攻めの厚みはなく、距離感の悪さが見えた。そしてエクアドル戦では、チームとしてのバランスの悪さを露呈。間延びしたラインでプレスはきかず、鎌田大地、遠藤航を投入した後半途中までろくに攻めの形を作れなかった。

 森保一監督は、これまでの戦いを踏襲してカタールに乗り込むのだろう。言葉遣いは丁寧で、物腰も柔らかい監督だが、とびきり頑固である。それは監督としては一つの美徳とも言えるが、戦いのバリエーションは少なく、欧州で台頭著しい選手たちに応じた戦術を選択できないのはデメリットだ。

 もはや代表が変わる余地は少ないが、それでも提言を止めるべきではない。

森保監督の「貢献ポイント」

 カタールW杯、森保ジャパンの26人は11月1日に発表されることになったが、はたして誰になるのか?

 森保一監督は、良くも悪くも「功労」を重んじるだけに、今回の欧州遠征の30人のメンバーからの刷新は考えられない。どれだけ代表のために戦ってきたか。その時間と質を掛け合わせ「貢献ポイント化している」と疑うほどである。高いレベルで活躍している選手を見出し、力を引き出し、一気にチーム力を上げるという開明さは乏しい。

 例えば、スペインのルイス・エンリケは17歳のガビを躊躇わずにネーションズリーグでデビューさせ、飛躍のきっかけを作った。9月のネーションズリーグでも、ボルハ・イグレシアス、ニコ・ウィリアムスを次々にデビューさせ、後者のニコは「ルイス・エンリケの新恋人」と言われるほどの活躍で、逆転でのW杯メンバー入りもあると言われる。

 しかし、森保監督は単純に代表経験の厚みを適用する。「貢献ポイント」は簡単には覆らない。板倉滉、浅野拓磨のケガ回復次第なところはあるが、個人的見解を別に、以下のようなメンバーが予想される。

GK

川島永嗣(ストラスブール)

権田修一(清水)

シュミット・ダニエル(シントトロイデン)

DF

長友佑都(FC東京)

吉田麻也(シャルケ)

酒井宏樹(浦和)

谷口彰悟(川崎F)

山根視来(川崎F)

中山雄太(ハダースフィールド)

冨安健洋(アーセナル)

伊藤洋輝(シュツットガルト)

板倉滉(ボルシアMG)

MF

原口元気(ウニオン・ベルリン)

遠藤航(シュツットガルト)

守田英正(スポルティング)

旗手怜央(セルティック)

田中碧(デュッセルドルフ)

柴崎岳(レガネス)

FW

伊東純也(スタッド・ランス)

南野拓実(モナコ)

前田大然(セルティック)

鎌田大地(フランクフルト)

三笘薫(ブライトン)

堂安律(フライブルク)

上田綺世(セルクル・ブルージュ)

久保建英(ソシエダ)

「いい守りがいい攻めを作る」

 それが通底したコンセプトで、それを運用できそうな人材が招集されてきた。

 ハイプレスでミスを誘ってからのカウンターは、リスクを排除した最も効率の良い戦いと言えるだろう。常に受け身的な発想で、相手の良さを消し、隙を突く。システムにかかわらず守りありきで、技術やアイデアよりも、献身性やスピードや経験が重んじられる。

 ところが直近のアメリカ、エクアドル戦では、戦術運用で見逃せない欠陥が出ているのだ。

鎌田、久保はもっとできる

 アメリカ戦、森保監督はようやく4-2-3-1を採用し、冷遇してきた鎌田、久保建英を抜擢した。鎌田、久保の二人のコンビネーションは希望が持てるものだった。ヨーロッパカップ戦でも強豪を打ち破るプレーを見せているだけに、当然のパフォーマンスだろう。しかし森保監督の色が強いチームで、思った以上のプレーが出なかったのも事実だ。

 鎌田、久保はコンビネーションによってプレーを変化させ、敵を苦しめる。そのためには、スムーズなパス交換のために良い距離間でチームとしてプレーする必要があるが、最終ラインの押し上げが少なく、守備のポジションを多くの選手が取るため、攻撃が限定される。結果、カウンター攻撃のみで波状攻撃はほとんどなかった。

 プレッシングで相手がバタついたおかげでカウンターは有効だったが、はっきり言って、「この日のアメリカだから通用した」レベルだった。ドイツ、スペインにはいなされ、90分間で見た場合、足を使いつくした後半に打つ手がなくなるだろう。前田大然のプレッシングを礼賛する声も出たが、ボールが収まらず、コンビネーションも作れない方が問題。「FIFAランキング14位に快勝」と酔うなど噴飯ものだった。

 エクアドル戦の苦しい展開は、さもありなん、だろう。古橋亨梧、南野拓実がいくら前線から追っても、徒労に終わっている。

予想できたエクアドル戦の劣勢

 エクアドルのバックラインは一人一人がボールを握り、運べる技術・度胸を持っていた。また、前線の選手が日本の最終ラインと駆け引きすることで、簡単に押し上げさせず、プレッシングを無力化。むしろ、自分たちがボールをつないで、能動的な展開を見せた。

 日本は中盤が、前と後ろを連結させるようなインテンシティを見せたかったが、むしろ弱みをさらけ出していた。

 柴崎岳は何度も空中戦で負け、五分五分のボールを奪えず、効果的なパスも配球できず、空回りだった。「貢献ポイント」は高いが、現状は厳しい。パートナーの田中碧も、プレーリズムを悪くする始末。後半途中に遠藤航が交代出場し、やや落ち着いたが、むしろ「遠藤のバックアッパー不在」が浮き彫りになり、「いい守りがいい攻めを作る」の理念が危ういことも明らかになった。

 なぜ、CLでレアル・マドリードとも堂々ボランチで戦った旗手怜央を抜擢しなかったのか。ポリバレントな旗手は、左ウィングバックのようにも使えたはずだし、選択肢はいくらでも広がった。CLシャフタール・ドネツク戦では得点を記録した旬の選手の勢いを、チームに持ち込めたはずだが…。

 結局のところ、「貢献ポイント」で序列が低いのだ。

最後の望みは選手のイニシアティブ

 これから選ばれる26人は現状維持が有力で、メンバー刷新はないだろう。ただ、人材がいないわけではない。特筆すべきは、過去の大会と比べても、欧州を舞台に戦う有力選手の数は最も多い点だ。

 数十人の選手がチャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグで奮迅の働きを見せ、イングランド、ドイツ、フランス、ポルトガルなどトップリーグのクラブに所属している。他にもエクアドル戦の殊勲者、シュミット・ダニエルはベルギーリーグでプレーを重ねたことで、安定感が増した。

 しかし、森保監督に欧州での指導経験はない。

 最後の望みは、選手たちがどれだけ自主性を発揮できるか。

 2002年日韓W杯では大会直前、バックラインの選手が自ら「フラットスリー」を捨てたし、2010年南アフリカW杯でも、直前合宿で選手たちのミーティングの大転換を決めた。また、2018年ロシアW杯では、ヴァイッド・ハリルホジッチから西野朗監督に交代したのが大会前で、選手たち発信で戦い方を変化・適応させている。

 鎌田、久保、三笘、旗手、堂安、遠藤、守田、冨安、吉田、酒井…これだけの実績を作っている実力者が一つのイメージを共有できたら――。勝機は必ずある。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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