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シャビ・バルサの2カ月。メッシが去ったクラブの復権はあるのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
ガビに指示を伝えるシャビ監督(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

シャビ・バルサの2カ月を検証

 昨年11月、シャビ・エルナンデスがロナウド・クーマンに代わってFCバルセロナの監督に就任し、今年1月で2カ月が経過した。

 9試合の戦績は5勝2分け2敗。勝ち越してはいるものの、スペイン国王杯は3部クラブにどうにか勝利しているだけに、楽観視はできない。肝心のチャンピオンズリーグ(CL)はベンフィカに勝ち切れず、バイエルン・ミュンヘンに完敗し、グループステージで敗退。リーガエスパニョーラでも20節終了時点で5位と優勝は厳しいポジションだ。

 冬のマーケットで、マンチェスター・シティのフェラン・トーレスに5500万ユーロ(約71億円)を叩いて獲得し、注目されたが、コロナ陽性で出鼻を挫かれた。他にもけが人も多く、今までのツケを払うような災厄に見舞われている。「ジョアン・ラポルタ会長がミノ・ライオラ代理人とアーリング・ハーランド獲得の密約を交わした」と言われるが、”不良債権化”したサミュエル・ウンティティ、フィリペ・コウチーニョらを放出できず、ウスマンヌ・デンベレと契約更新もできない(キングスレー・コマンとの電撃トレードも噂されるが)のが実状だ。

 現場は1試合1試合を戦うしかない。

「どうにか流れを変えようとしたが、できなかった」

 シャビは12月にオサスナに、2-2と追い付かれた試合後に語っている。

「最後の20分は敵陣でプレーし、辛抱強く戦うべきだったが、その力が足りなかった。試合をコントロールできず、厳しい現実と言える。もはや、プレーの姿勢や情熱や熱意の問題などではない。サッカーの質の問題。我々はゼロからスタートする。新しい時代の幕開けだ」

 新時代は訪れるのか?

 シャビ・バルサの2カ月を検証した。

バルサのサッカーを取り戻せ!

 シャビは就任後すぐ、土台に手を入れた。ラインをコンパクトに保って、プレーメイカーのセルヒオ・ブスケッツの周りに選手を集めてボールのつながりを改善させている。高いラインで敵をゴールから遠ざけ、守備も前がかりになって、攻撃的姿勢が出た。自然とポゼッション率が向上し、無闇にクロスを放り込むプレーもなくなった。

「バルサのサッカー」

 それは単純にボールを握るだけではない。ボールを失わず、もし失ったら、その地点を攻撃の起点とし、攻め続ける。各選手が恐れず、嬉々としてボールを受けるポジションを取って、それぞれが選択肢を与え合う。それが一つのオートマチズムを生み、連係を使って崩し、ネットを揺らす――。その鍛錬と勇敢さこそがスペクタクルで、バルサの正体だ。

 バルサのサッカーは凡庸な理論では割り切れない。「フィジカル」「効率」「ディフェンス」などの要素を盛り込むと「余り」が出る。バルサのサッカーは、バルサによってしか割り切れない。だからこそ下部組織ラ・マシアで何十年もかけ、育成に取り組んできた。

 バルサのサッカーを実現する人材がいないわけではない。DFジェラール・ピケ、ロナウド・アラウホ、エリク・ガルシア、ジョルディ・アルバ、オスカル・ミンゲサ、MFセルヒオ・ブスケッツ、セルジ・ロベルト、ガビ、ニコ・ゴンサレス、リキ・プッチ、FWアンス・ファティ、イリアス・アクマシュ、アブデ・エザルズーリ。これだけの下部組織出身者がバルサを支えているのだ。

 しかし、現時点では鍛錬も勇敢さも未熟である。

バイエルン戦で見た現実

 バイエルン戦は、まるでレッスンを受けるようだった。

 バイエルンの選手は、流れるようにボールをつないだ。キック&コントロールの質が際立って、暗黙の了解でそれぞれが走り、そこにボールが出て、コンビネーションが生まれていた。ノッキングすることがなく、緩急で変化をつけられるから、悉く逆を取った。

 バルサはひとつのトラップにズレが出た結果、相手に隙を与えていた。ボール回しのリズムが鈍く、プレーを読まれてしまった。単純なプレースキルで劣っていた。

 緩慢な攻撃を簡単に跳ね返された後、裏へボールを出されるたび、背後への弱さを見せている。前半20分過ぎには力量差が出て、消耗からすべてが後手に回った。例えばジェラール・ピケはスピードで衰えを見せ、簡単に背後を取られていた。プレー構造のひずみが出た。ラインを上げ、高い位置でボールをつなぎ、攻守で主導権を握るには、彼のスキルは欠かせないが、一方でリスクも生じていた。

 ただ、バルサはこの戦いを貫くしかない。

「攻撃サッカーの伝統?守備の再建が急務だ」

 前任者のクーマンは守備的な戦いに活路を見出そうとしたが、それはすでに失敗しているのだ。

シャビ・バルサの希望

 12月18日のエルチェ戦は、好転も見られている。

 シャビ監督がバルサBのフェラン・ジュグラをゼロトップで抜擢し、攻撃が活性化した。ジュグラは積極的にスペースを動き、味方に選択肢を与え、なおかつ自身のシュートへの意欲も強く、コンビネーションが生まれていた。CKからジュグラがヘディングで先制した後、ガビがカウンターを決め、2-0でリードした。攻撃はほぼ満点だった。

 ただ後半になると、やはり守備が乱れた。基本的に寄せが甘く、特にエリア内でアタッカーをフリーにしてしまう。攻撃は影を潜め、2-2に追いつかれ、セットプレーは他にも危ないシーンがあった。最後はデンベレ、ガビで崩し、クロスをニコが押し込み、3-2と薄氷を踏む勝利を収めたが…。

「ゴールラッシュしていてもおかしくない試合だ」

 シャビもむしろ歯がゆさを見せたが、希望もあった。

「ピッチで誰がフリーなのか、を見つけ出し、誰が飛び出すべきか、誰が残るのか、そこを整理するのに時間がかかっている。それが苦しんでいる理由だろう。でも、ピッチにおけるポジション的優位性を徐々に理解しつつある。例えば3バックは良く相手を見て、個性を出せていたし、中盤の4人はシンクロし、トップ下のガビはラインの間で、いいタイミングでスペースに対して攻撃できていた」

 2カ月でわずかだが好転が見える。例えばピケはボールを奪い返す回数、失う回数が減った。選手のパフォーマンスが上昇気配で、年明けのマジョルカ戦もその流れ(ジュグラは左サイドFW)をつなげていた。

ポスト・メッシは?

 ただ、焦ってはいけない。

 今はサンドロ・ロッセイ、ジョゼップ・マリア・バルトメウという二人の会長に10年間にわたって、腑抜けにされたチームを再建する一歩を踏み出したばかり。複数のセンターバックを最終ラインに揃えるのはシャビも本意ではないだろうが、チーム編成を考えれば苦肉の策で、ロナウド・アラウホの台頭という副産物も生み出し(ただ、国王杯で右手中手骨骨折の疑いで長期離脱の可能性)、一進一退を続けてチームを好転させる時期だ。

 リオネル・メッシがいたら、という無念さはある。シャビ監督就任まで間に合わず、そこが悲劇と言える。相手をハンマーで打ち壊すような選手がいてこそ、チームはもっと前がかりでボールを回せる。

 残念だが、メンフィス・デパイはバルサのエースの器ではない。得点力に長け、プレースキッカーとしても貴重だが、バルサの戦いの中では明らかに浮いている。パス交換のリズムは合わないだけでなく、一人で決め切る力も物足りない。現状では緊急的にジュグラだが、今後はウスマンヌ・デンベレ、新加入のF・トーレス、復帰間近のアンス・ファティがポスト・メッシを担うか。

 シャビはポール・ポグバの獲得交渉をストップさせたように明瞭なチームプランがある。現状は思うようにはボールを回せず、突出した個人によるカウンターでの得点も多いが、フィジカル勝負には逃げない。F・トーレスのような有力なアタッカーを組み入れ、アブデ、イリアスのような崩し役、ニコ、ガビ、プッチのような中盤の選手と化学変化を起こす。フランク・ライカールト監督がロナウジーニョ獲得で、ラ・マシアのメッシやアンドレス・イニエスタを触発したように、だ。

 1月12日、シャビ・バルサはスペインスーパー杯でレアル・マドリードと激突する。タイトルマッチとしては小さいが、宿敵マドリードとの一戦はいかなる時も特別。そこでどんな戦いを見せられるか、それは今後の試金石となるだろう。

「今は自分たちがやっていることを信じれるか」

 シャビの言葉だ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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