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代表メンバーを欧州勢だけで組める時代。久保、南野、冨安など欧州で成功するカギとは?

小宮良之スポーツライター・小説家
試合後、健闘をたたえ合う久保建英と乾貴士(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

止まらない日本人サッカー選手の欧州進出

 今年はコロナ禍の影響で世界中のサッカーシーンが混乱しているにもかかわらず、多くの日本人選手が海を越えている。

 遠藤渓太(横浜F・マリノス→ウニオン・ベルリン)、橋本拳人(FC東京→FCロストフ)、室屋成(FC東京→ハノーファー)、鈴木武蔵(コンサドーレ札幌→Kベールスホット)など日本代表選手たちが、次々に欧州へ進出。今や、欧州組だけで日本代表が構成できるだろう。

 10月には欧州遠征で代表戦が行われる予定で、10月1日に発表される予定だが、例えば以下のように欧州組だけでワールドカップの選手枠23人の有力選手を招集できる時代だ。

 GK権田修一、シュミット・ダニエル、川島永嗣

 DF酒井宏樹、吉田麻也、冨安健洋、長友佑都、菅原由勢、板倉滉、安西幸輝

 MF柴崎岳、橋本、遠藤航、中山雄太

 FW久保建英、中島翔哉、南野拓実、大迫勇也、鎌田大地、堂安律、安部裕葵、乾貴士、岡崎慎司

 

 日本人の欧州進出は続くだろう。Jリーグのクラブでプレーするよりも、助っ人として海外で生き残ることは難しく、成長を促す。その現実を選手たちが肌で感じているのだ。

 欧州挑戦で成功する条件とは――。

欧州で成功する素質

「(選手のプレーについて話す時)ボール扱いがうまいであったり、フィジカル的な強さであったり、それは一つの基準になる。スペース感覚、スピードという話も出る。しかし一番忘れてはならないのは、タイミングだ」

『日本サッカースカウティング127選手―世界基準で見る本当の実力―』(東邦出版)を共著で執筆したスペイン人指導者、ミケル・エチャリはそう説明していた。エチャリはレアル・ソシエダ、エイバル、アラベスというスペインのクラブで、監督だけでなく、強化部長、育成部長、戦略分析、スカウトなども経験し、その言葉は説得力がある。ホセバ・エチェベリア、フランシスコ・デ・ペドロ、シャビ・アロンソなどを発掘しただけはあるだろう。

「適時に、正しい場所で、精度の高いプレーができるか。それが好選手かどうか、を選ぶ基準になる。タイミングを心得た選手だ」

 タイミングを持っている選手は、相手の裏を簡単に取れる。そうすると、ピッチでは視界が開ける。どれだけ強度があっても、速くても限界があるが、相手の裏を取った場合、どれだけ相手が強くて速くても出し抜ける。

「時を操る」

 そんな表現もできる。アンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)は、まさにその使い手だろう。イニエスタは単純にうまいでは収まらない。足などは棒きれのようだが、相手の逆を取れることでボールを奪われず、決定的なプレーができる。相手の力を利用し、入れ替われるのだ。

タイミングは万能

 どのポジションであれ、自分のタイミングを持っている選手は、高いレベルでプレーできる。

 その点、FW古橋享梧(ヴィッセル神戸)、斉藤光毅(横浜FC)、上田綺世(鹿島アントラーズ)、旗手怜央(川崎フロンターレ)、MF松尾佑介(横浜FC)、坂元達裕(セレッソ大阪)、三苫薫、田中碧(川崎フロンターレ)、DF瀬古歩夢(セレッソ大阪)、渡辺剛(FC東京)などは、各ポジションで海を越えても適応できる可能性を秘めた選手と言える。

 古橋の持つ絶対的なスピード、スペースへの入り方は、欧州のスカウトが好むところだろう。ボールをヒットする感覚も含めて、自分のタイミングを持っている。敵ディフェンスと少しずれたテンポでシュートを打ち込める。ダビド・ビジャ、イニエスタと近くでプレーすることで、その感覚が洗練されてきた。オファーは来ているはずだが…。

 田中も非凡さを感じさせる。相手と入れ替わるような動きに長けているし、柔軟に対応できる。それがボランチ、アンカー、あるいはインサイドハーフでもプレーできる理由だろう。攻守の車輪を動かし、今のJリーグで世界に推せるナンバー1のMFだ。

 また、ポテンシャルの高さではセレッソの西川潤の名前を挙げたい。今は久保のJ1での1年目のようにJ1で順応する過程か。きっかけ次第で、大きく化ける可能性がある。

中村拓海のポテンシャル

 大穴としては、昨シーズンから注目してきたFC東京の中村拓海を推す。

 今シーズン、中村は室屋成の穴を埋める形で、右サイドバックに定着しつつある。ピッチに立つ彼は悠然とし、自分のリズムでふてぶてしいほどのプレーをする。それだけ周りが見えていて、敵の鼻をあかすようなキック技術も持っている。ボールを持てるし、運べるし、敵したタイミングで適した場所にパスを出せる。単純に走力のある選手に縦に突破されると惰弱さを見せる点は、守備者として成熟が足りないが、ボールプレーヤーとしてのポジティブな面が色濃く映る。

 単純な速さ、強さだけでは、トップレベルでは通用しない。タイミングを操る。それによって、コンビネーションも豊かになり、プレーに広がりが出る。どこであっても通用する、成長できる、結果が残せる、につながるのだ。

サッカーの本質

「サッカーは格闘技」

 その表現は真実の一部だが、本質を射抜いていない。トップレベルのサッカーでは、インテンシティは大事だが、それを越えるインテリジェンスが求められる。その具体的な手立てになっているのが、相手との間合い、駆け引き、タイミングなのである。

「スペインの1部と2部の選手の違いは、間合いというか。2部の選手はガツガツとくるし、激しいんですが。1部の選手はスマートというか、無理に来ない。でも、ずっと見られている感じで、少しでも隙を見せた瞬間、あっという間のタイミングで、キレイにかっさらわれる」

 リーガ2部で二けた得点を記録した福田健二は、スペイン国王杯で1部のビジャレアルと対戦した後、その違いを語っていた。タイミングは、攻撃だけの話ではない。サッカーの本質だ。

 欧州戦線でタイミングを鍛えられた日本人選手は、プレーに厚みを感じさせる。彼らが飛躍するのは、必然と言える。今後も海を越える選手の流れは止まることはない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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