Yahoo!ニュース

ロシアW杯、本田、岡崎、香川なしでハリルJAPANにゴールは生まれるか?

小宮良之スポーツライター・小説家
プレミアリーグで猛者を相手に活躍にする岡崎慎司。(写真:Shutterstock/アフロ)

「現役時代のヴァイッドはストライカーでね。クロスをヘディングで叩き込む、というタイプだったらしい」

 ヴァイッド・ハリルホジッチを日本代表監督に招聘した代表関係者は、そう語っていたことがあった。

「だから日本代表でも、当然そういう戦いも模索してきたと思う。ただ、お眼鏡にかなうストライカーがいなかった。そこで、サイドにストライカーを"隠す"ような布陣になったんだ」

 ハリルホジッチの攻撃構想を端的に説明しているだろう。

 事実、ロシアワールドカップアジア予選では、4-2-1-3(4-2-3-1とも言える)の両サイドのアタッカーがゴールを積み重ねた。最終予選で、原口元気、久保裕也の二人が台頭したのは自明の理だった。トップの大迫勇也は囮で、マークを引きつけるような役割が大きい。これに、ミドルシュートにアドバンテージがあるMF井手口陽介を絡ませる。

 これが、ワールドカップでの攻撃布陣として有力になりつつあるだろう。

 しかし、2015年3月に発足したハリル体制でのトップスコアラーは、岡崎慎司(9点)、本田圭佑(9点)、香川真司(8点)の3人である。

 力を示してきた3人を外し、ワールドカップを戦うなどあり得るのだろうか?

プレミアリーグで活躍するFWを呼ばない手はない

 2017-18シーズン、岡崎はプレミアリーグ、レスター・シティで先発としてプレーし、6得点を記録している。世界一タフなリーグで、戦い続ける。サッカーインテリジェンスが高く、プレーの質は際立つ。このレベルのFWは世界に数多くいない。一昨シーズンは奇跡の優勝の原動力になり、昨シーズンはチャンピオンズリーグで決勝トーナメントに進出した。実績は申し分ない。

「岡崎は高さを欠く」

 それがハリルホジッチが岡崎を呼ばなくなった理由の一つと言われる。たしかに、大迫勇也、杉本健勇、川又堅碁などは、「ハリル好み」の高さがセールスポイントになっている。岡崎は高さに長所がある選手ではない。

 しかしそもそも、ワールドカップを高さで戦い抜けるのか? 

 昨年12月のE-1選手権でさえも、高さ勝負では見劣りしている。北朝鮮、中国にすら、勝ちきれなかった。せっかく奪い返したボールを放り込む、という愚策。あえて高さで挑む必要はない。グループリーグで戦う、ポーランド、コロンビア、セネガルは長身のディフェンダーが揃う。単純に放り込んでも、誰がトップに入ろうと、カモにされるだけだ。

 さらに言えば、トップに長身選手だけを置いても、サイドにはFW的な選手を起用するため、ボールを供給するクロッサーが足りない。大きな矛盾がある。現状、得点する算段が偶発的で、形はないに等しい。

小手先の策は通じない

 2014年ブラジルワールドカップを率いたアルベルト・ザッケローニ監督は、「左で崩し、右で仕留める」という得点パターンを確立していた。左サイドで香川、本田、長友佑都、前田遼一が連係し、相手の守備ラインを突破、あるいは攪乱。逆サイドでフリーになった岡崎がフィニッシュした。

 ハリルホジッチは、極端なポゼッション重視を捨て、極端なカウンター主義に舵を切った。それは一つのやり方としては取り込むべきものだったが、日本人はカウンター攻撃に慣れていないこともあって、多くの選手が困惑。原口のように申し子になった選手も出てきたが、クラブレベルで調子を落とす選手が続出したことで、チームは下降線に入ってしまった。

3人を用いる戦い方を

 本田はメキシコリーグで試合を重ね、プレーの勘を取り戻し、ゴール、アシストの量産体制に入っている。リーグのレベルはJリーグとほぼ同等でも、外国人助っ人としてやっているだけに、山を乗り越えている強さもある。大舞台での強さも捨てがたい。

 香川も、ドルトムントで高水準のプレー。鮮やかなジャンピングボレーを決め、華麗なお膳立てを見せている。ブンデスリーガの強豪で先発を張るのは簡単なことではない。バックラインの前で一瞬にしてチャンスを創り出せる能力は非凡で、日本代表候補の中でも図抜けたものがある。

 現代表メンバーの攻撃陣の多くがパッとしない一方、岡崎、本田、香川の3人は地力を見せている。

 ザッケローニの遺産を使うことは、卑怯な手ではない。「代表では不振」という声もあるが、問われるべきは指揮官の手腕だ。

ハリル采配の不安

 昨年11月のブラジル戦、ハリルホジッチは「井手口をトップ下に入れ、前からの守備とミドル一発を狙う」という素人臭の強い場当たり的戦術を選んでいる。老練な相手に、小手先の策が通用するはずもなかった。本職がトップ下ではない井手口は、たとえボールを持っても、コントロールがずれ、アイデアも平凡。守備も無理なプレッシングを仕掛けるも、高い技術で外され、裏が空いてしまった。

 E-1選手権に至っては、ハリルホジッチの攻撃指示は「乱心」さえ疑うほどだ。

「中盤でつなげず、とにかく前に蹴れ!」

 奪っては蹴り返し、相手にボールを渡す。格下を相手に、わざわざアクシデントを祈るような攻撃になった。1-4で大敗した韓国戦後には、「どうあがいても、この日の韓国には勝てない」と責任を転嫁したが、韓国もBチームだった。

 1対1におけるインテンシティの低さを、ハリルホジッチは指摘し続ける。それは一つの正論だろうが、日本代表にはそれで勝ちきれなかった歴史がある。そこで、勝てる方法(=コンビネーションや機動力)を模索してきた。球際の強さを向上させる必要はあるし、実際に海外のトップリーグと比べたら、Jリーグは脆弱さを抱える。ただ、そこに特化して解決策を求めているだけでは、勝てるものも勝てなくなってしまう。

 現時点で日本がコロンビア、セネガル、ポーランドに肉弾戦を挑んでも、玉砕するだけだ。

 岡崎、本田、香川が絶対的存在でなくなっているのは明白だろう。しかし、彼らの得点パターンを生かす、という手を捨てられるほど、日本は恵まれたチームではない。指揮官は、3人を組み入れる度量と引き出しを見せるときだ。

     

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

小宮良之の最近の記事