Yahoo!ニュース

混沌のJ1昇格争い。鍵はストライカー?風間グランパスの巻き返しは・・・

小宮良之スポーツライター・小説家
京都サンガではFWとしてプレーする闘莉王(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 J2リーグは、かつてないほど混沌とした様相を呈している。第27節終了現在、昇格圏6位の横浜FCと16位の愛媛FCまで勝ち点差はわずか6。数字上は2試合で並ぶことになる。1試合ごとに順位が大きく入れ替わっている。ちなみに6位と3位名古屋グランパスも、勝ち点差はわずか4しかない。

 はたして、群雄割拠を制してJ1昇格の夢をつかむチームはどこになるのか?

 過去の例を紐解くと、その法則がわずかだが見えてくる。

勝敗を左右するゴールキーパーとストライカー

 J2のクラブは資金力が豊富と言えず、自ずと戦力が限られる。そこで「ハードワーク」を戦いの基本に掲げるチームが少ない。横文字にすると、それなりに伝わるが、要するに「一生懸命に頑張る」ということである。

 ここで差を出すのは難しい。

 そこで昇格チームに共通するのは、「ゴール前で主導権を握れる存在」だろう。

 ポジションで端的に言えば、ゴールキーパーとストライカー。ゴール前を制するプレーヤーが勝負を左右する。チーム全員でボールゲームをやり抜く、という戦力を揃えるのは下部カテゴリーでは難しい。技術精度が十分ではなく、J1よりもミスが多発。偶然性が高くなるため、パスや仕掛けの質などには目を瞑り、どこかで割り切った戦いにならざるを得ないのだ。

 昨シーズンのJ2も、ゴールキーパーの実力に近い順位を反映している。ク・ソンユン(コンサドーレ札幌)、シュミット・ダニエル(松本山雅)、キム・ジンヒョン(セレッソ大阪)、菅野孝憲(京都サンガ)、中林洋次(ファジアーノ岡山)。一人では守りきれないが、潮目を変えるのがゴールキーパーであることも事実で、その比重はカテゴリーが下になるほど高くなる。

 なにより、ストライカーの存在は欠かせない。昨シーズンも鄭大世、都倉賢を擁した清水エスパルス、札幌は自動昇格。一昨シーズンも、得点王に輝いたジェイ(ジュビロ磐田)、2位ムルジャ(大宮アルディージャ)がJ1自動昇格に貢献している。(ミスが多くなってボールが落ち着かない)非論理的な状況が多くなればなるほど、一人の点取り屋の力が物を言う。

サガン鳥栖、豊田のケース

 もっとも、一人のゴール量産が昇格に直結しないケースもある。ストライカーにはチームの先鋒として「旗頭」のような役割が求められる。「点取ってるからさぼってええねん」という独りよがりな振る舞いでは、チームは息切れする。

「このチームを(J1に)上げることで、自分も高められると信じていた」

 2011年にサガン鳥栖を昇格させた豊田陽平は、当時語っていた。豊田はそのシーズンに得点王になっているが、チームを全力で引っ張った。前線で体を張り、労を惜しまず走り、相手に流れを与えていない。自分を捨てられる男がいたことで、チームは奮い立った。

「鳥栖は各選手が力を振り絞らなければならない。それはチームの伝統になっている。犠牲になる心を持てるか。そこはどんなときも、決して失ってはならない。昔、ユンさん(ユン・ジョンファン監督)は『仲間がやられたら、親兄弟がやられたと思え』と言っていましたが、そういう精神を鳥栖は残していくべき」

 そう語る豊田はチームの礎のような存在にもなっている。

今シーズン、昇格争いの行方は

 では今シーズン、どこに「旗」は立っているのか?

 イバ、ウェリントンというストライカーを擁する横浜FC、アビスパ福岡は、ストライカーが旗頭になっている。イバも、ウェリントンも前線で戦術を動かし、決定力も備える。

 そして、二人のスペイン人監督、リカルド・ロドリゲス、ミゲル・アンヘル・ロティーナが率いる東京ヴェルディ、徳島ヴォルティスも、最後まで昇格争いに食らいつくだろう。どちらの指揮官も、ストライカーを生かす術を心得る。ロドリゲスは渡大生、ロティーナはアラン・ピニェイロ、ドウグラス・ヴィエイラというストライカーたちの能力を最大限に引き出している。

 また、田中マルクス闘莉王がFWとしてチームを引っ張る京都サンガは伏兵だろう。闘莉王はボディコンタクトに強く、ボールを収められるし、パスセンスも長ける。何より気持ちを見せられる選手だけに旗色は鮮明に出る。ただ、故障を抱えながらのプレーが不安要素だ。

名古屋の戦い方は注目

 その一方、一人の点取り屋が絶対的条件ではない。

 首位を走る湘南ベルマーレは、ストライカーとしての旗印はなくても、チョウ・キジェ監督がカリスマ性を発揮している。チーム戦術の完成度が高い。「負けにくいチーム」と言えるだろう。

 同じように、松本山雅もチームとしての人の動き方、ボールの動かし方、セットプレーでの強度など、集団として鍛えられている。また、水戸ホーリーホックは2トップを中心に粘り強い戦いを見せる。大分トリニータは昇格組らしく、勝利を重ねてきた勢いがある。ジェフ千葉も、ファン・エスナイデル監督が「ハイプレス、ハイライン」という特色を見せ、「肉を切らせて骨を断つ」という姿勢で昇格争いに食らいついている。

 堅実さを極めているのが、ファジアーノ岡山だろう。長澤徹監督は昨季も矢島慎也、押谷祐樹らを覚醒させたが、今季も選手の力を最大限に引き出し、チームの力に昇華させている。絶対的ゴールゲッター不在の中、前線で全体の戦闘力を高められる赤嶺真吾をトップに置き、シャドーの豊川雄太のゴールを"誘発"。赤嶺が26節にケガし、復帰は9月末以降と言われるが、その離脱がどう出るか。

 最大の注目は、クラブ史上初の降格の憂き目に遭っている名古屋だろう。新たにチームを率いる風間八宏監督は川崎フロンターレで名声を高めた。「選手を成長させる」という点で、その手腕に日本人監督で右に並ぶ者はいない。名古屋でも徹底したボールプレーを追求。それはJ2に馴染まず、前半戦は苦しんだが、MF田口泰士らに覚醒の気配が見える。

「J2にはJ2の戦い方がある」

 それは正論だが、定石を破ってこそ、スポーツの醍醐味とも言えるのだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

小宮良之の最近の記事