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「ポスト・ネイマール」は誰の手に?バルサ、デウロフェウの可能性。

小宮良之スポーツライター・小説家
すでにスペイン代表にも選ばれているデウロフェウの技術は折り紙付き。(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

 ブラジル代表のエース、ネイマールがパリ・サンジェルマンに2億2200万ユーロ(約290億円)で移籍することが決まった。その喧噪は未だ収まっていない。

 しかし、バルサは至上命題に取り組む必要がある。

<ポスト・ネイマール>

 決して簡単な課題ではない。

ポスト・ネイマール

 MSN(メッシ、スアレス、ネイマールの頭文字を取った)は「フットボール史上最高の攻撃トリオ」と畏怖された。実際、彼らは3シーズンで300得点近くを叩きだしている。主に左サイドの攻撃を担当したネイマールはスモールスペースでの打開力に優れ、中央に切れ込んでファーポストに放つシュートは神業的だった。アイデアも豊富で、メッシ、スアレスとの連係も磨きがかかっていた。

「ネイマールを欠く損失がない」

 それはいくらなんでも、それは強がりにしか聞こえないだろう。ネイマールはこのポジションでは世界ナンバー1と言っても過言ではない。利き足やタイプは違うが、メッシの後継者にもなっていたはずなのだ。

 しかしバルサとしては、先に進むしかない。

「ユベントスのディバラ、リバプールのコウチーニョ、ボルシア・ドルトムントのデンベレのいずれかと本格的な交渉を進める」

 そんな話も流れている。巨額の移籍金が転がり込むことで、エムバペにも食指を動かすとも言われる。

 ともあれ、エルネスト・バルベルデ監督を長とした現場は、現有戦力で最適解を見つけるしかない。ネイマールが退団するとは思われていなかったように、移籍はどう転ぶか分からないからだ。

デウロフェウのやんちゃさ

 

 2017―18シーズン、バルサはルイス・エンリケが去り、バルベルデ監督が新たに指揮を執ることになっている。システムのマイナーチェンジはあり得るが、4―3―3が基本になることは間違いない。そして4―2―3―1になっても、4-4-2になっても、3―4―3になっても、左サイドのアタッカーに求められる要素は大きくは変わらないだろう。

 チームに幅を与え、攻撃を活性化しつつ、得点にも絡む。相手の裏を取れる発想力も欠かせない。

「ゴールに関わる仕事をする、その精度の高さ」

 簡潔に言えばそうなるか。

 昨シーズン、ネイマールの2番手は、アルダ・トゥランだった。しかしトルコ代表MFは移籍リストに入っており、去就が微妙。バルサのオートマチズムへの適応でも苦労している。

 他にも、ポリバレントな能力を持ち、複数のポジションを兼ねるデニス・スアレスが代役候補に名前が挙がる。ネイマールが移籍した直後の試合となるジムナスティック・タラゴナ戦では、ネイマールが陣取っていた左FWとして先発。メッシ、スアレス、イニエスタら主力抜きの試合だったが、選択肢であることを証明した。攻撃センスは申し分ない。

 他にもオプションはある。グアルディオラ監督時代のように、イニエスタを左サイドアタッカーで起用する案も浮上。そして本来はセンターフォワードであるパコ・アルカセル、MFのアンドレ・ゴメスという本職ではない選手をコンバートするという可能性も出ている。

 しかし最もネイマールに近いのは、ジェラール・デウロフェウではないだろうか?

 タラゴナ戦は右足付け根の筋肉故障から復帰したばかりで後半途中の出場になったが、コンディションは上がってくるだろう。ACミランから戻ってきたデウロフェウは、技術レベルはネイマールと比べて遜色はない。ふてぶてしさや不敵さも共通する。セリエAでは名うてのディフェンダーたちをたった一人で翻弄。バルサの下部組織であるマシアで育っているだけに、特有のオートマチズムに順応するのも問題ないだろう。

 ただ、性格的には幼さが指摘される。

「やんちゃすぎる」というのか。規律をひどく嫌うところがあって、とにかくムラが多い。一言でいえば、エゴが強いのだ。

 デウロフェウをデビューさせたジョゼップ・グアルディオラ監督がトップチームで重用しなかった理由も、この辺りにある。その結果、2013年夏にプレミアリーグ、エバートンに放出されている。成熟したとも言われるが・・・。

 もっとも、不安定とも言える性格がデウロフェウの技量を高めたとも言えるのだ。

オランダ代表DFに食ってかかった11才

 11才の頃のデウロフェウが、バルサのレッスンビデオに出演している。バルサのトップチームに所属する選手がポジションごとに、子供用に分かりやすくテクニックを解説。守備編ではオランダ代表のファン・ブロンクホルストが出演し、サイドでの守りや攻め上がりをレクチャーしていたのだが、攻撃役で出演したのがマシアに在籍していたデウロフェウだった。

 サイドをオーバーラップしての1対1というトレーニング。ほとんどの選手はびびってしまって、仕掛けられない。ディフェンダー役のファン・ブロンクホルストは緊張した少年たちを気遣い、一度カットしたボールを返してあげる優しさを見せる。それでレッスンとしては十分に成立している。そもそも11才の少年が、トッププロを相手に勝てるはずはない。

 ところが、デウロフェウは左サイドでボールを受けると自信満々。右足でフェイントを掛けてから左足で縦に切り込む。一度はファン・ブロンクホルストに追いつかれるが、左足で切り返した後に右足でさらに縦方向に鋭く切り込み、マークを外して左足でクロスを折り返した。

 ファン・ブロンクホルストはいつでも足を出せる機会はあっただろう。あくまでレッスン。真剣勝負ではない。

 しかし、歴戦のトッププロを相手に物怖じしない性格は圧巻だった。

 デウロフェウはエゴが強く、集団の中に収まりきらないところはある。グループとしてのオートマチズムが基本にあるバルサでは、どこか異端に映る。しかし個人として突破し、決める力は群を抜いているのだ。

 断言できるが、ネイマールの代わりは誰もいない。しかし、誰かがその座を自分のものとしなければ、バルサは攻撃の片翼を失う。

 はたして、MSDは誕生するのか?

「今は選手たちが出場時間を増やす段階」(バルベルデ)

 緊急事態のチームがどのように飛行するのか、見物だ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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