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ハリルJAPANは限界か?大迫、原口、久保が定位置を取れた理由。

小宮良之スポーツライター・小説家
世界最高峰スペインで先発を勝ち取った乾貴士は、2年ぶりの代表復帰戦で活躍(写真:アフロスポーツ)

ロシアワールドカップアジア最終予選、日本は中立地テヘランで、イラクに1-1と引き分けている。”アウエー”で勝ち点1を拾い、グループ首位を守り、プレーオフ以上の権利を勝ち取った。気候条件や故障者続出など逆風が吹き荒れる中、健闘したとも言えるだろう。

しかし、世界サッカー勢力図でほぼ注目されない相手に「勝ちきれない」という事実を突きつけられた。

ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が率いるメンバーと采配で、ロシア本大会を勝ち抜けるのか?

不安要素が広がるのは避けられない試合だった。

昨年サウジ戦で戦術的熟成は見せたが

ハリルJAPANは2015年3月にスタートした。メンバー選考や戦い方には疑問が呈されてきたし、その発言は物議を醸すことが多かった。順風満帆だったとは言えない。

しかし昨年10月のオーストラリア戦では、ハリルJAPANは確実に戦術的熟成を見せている。トリートとプレッシングを織り交ぜ、相手を翻弄。強豪相手にも十分通用する精度だった。最終ラインを細かくコントロールしながら、中盤の長谷部誠が軸になって全体のバランスを保ち、カウンターで一気に飛び出していく選手たちのスピードと迫力も満点だった。

昨年11月のサウジアラビアとの後半も、戦術は正しく起動していた。原口元気、久保裕也、大迫勇也らが台頭。活力が漲り始めていた矢先だった。

今年3月の試合で、積み上げていたレンガが崩れるような"事件"が起きる。人を動かし、カバーし、アドバンテージを与えていた戦術的キーマン、長谷部がドイツ国内リーグで負傷。稼働させてきたシステムは、突如として不具合を起こした。

「中盤が苦しい」

ハリルホジッチが洩らしているように、長谷部の存在はあまりに大きかった。

しかし、こうした緊急事態でこそ、監督の力量は試されるものだ。

ハリルホジッチの自分色

今年3月のUAE戦、長谷部不在により、指揮官が選択したのは4-2-1-3から4―3―3への戦術変更だった。だが、このシステムは運用の問題を多く残した。今野泰幸の故障で、タイ戦はシステムを戻したが、こちらも目を覆う出来だった。イラク戦の前哨戦になったシリア戦は再び4―3―3をテストしたが、芳しい内容も結果も得られていない。

そしてイラク戦の布陣はオーストラリア戦に近かったが、戦術的には機能不全に陥っていた。

システムを運用するのは選手だが、編成を決断するのは指揮官。

そもそも、ハリルホジッチのメンバー選考は妥当なのだろうか?

ハリルホジッチは選考基準に、”自分の色”を強く出してきた。走行距離やスプリント数、さらに体重に対しても敏感。単純なスピードへの評価比重は高い。

「結果を出している選手を選ぶ」と公言するも、嗜好が強い傾向がある。例えば、ドイツで出場機会に恵まれない宇佐美貴史や終盤は先発から外れた浅野拓磨を優先的に選出。ブルガリアで活躍を遂げた加藤恒大の選出は話題になったが、こちらも個性的な選出と言える。

念のために書くが、一つ一つの選出が悪いわけではない。しかし、指揮官は選手の活躍度よりも、自分の眼鏡に合うか、でほとんどの選手を選び、無理にシステムに落とし込もうとした。それが、イラクに勝ちきれない、という結果に集約されたのではないか?

コンディションが良く、活躍をしている選手にチャンスを

ハリルホジッチは、Jリーグで活躍する選手に目を向けるべきだろう。例えば長谷部の代役にするなら、同じポジションで成果を出している大谷秀和、阿部勇樹が妥当だ。長谷部とタイプが違う選手なら、手塚康平や大島僚太のほうが本来は抜擢されるべきで、彼らを使い切れないなら、それは指揮官の器量の問題となる。

そもそも、ハリルJAPANで頭角を現した選手は所属クラブでの活躍をひっさげて入ってきた選手ばかりである。原口、大迫、そして久保とドイツ国内リーグで活躍したことで待望論が広がり、選出され、結果を叩きだしている。彼らは「ハリルの申し子」となりつつあるが、それは所属クラブでの好調によってつかみ取ったものと言える。クラブでいいプレーをしている選手は、当然ながらコンディションも悪いはずはない。

この選考方法は代表監督の定石の一つだろう。スペイン代表のジュレン・ロペテギ監督は、リーグ戦で結果を出した選手はほとんど必ず代表に招集。公平感を出すことで、全体の競争力を高めている。

結果を出せば選ばれる=自然な競争原理が生まれるのだ。

Jリーグにも人材はいる

Jリーグに人材がいない、とは思えない。必要なのは、発想の転換だろう。例えば、セレッソ大阪のユン・ジョンファン監督はポジションが見つからなかった山村和也をトップ下として抜擢。連係のパズルを解き明かすように、杉本健勇、水沼宏太らの力も覚醒させつつある。

ハリルホジッチは、頑固なまでにサイドアタッカーには「フィジカルタフネス(闘争心も含め)とゴールセンス」を求める。しかし、乾貴士だけでなく、齋藤学、関根貴大のようなドリブルで切り裂き、クロスを供給できる選手も駒にするべきだろう。それによって、小林悠、豊田陽平のようにクロスボールに対して強さを見せる2トップの可能性も出てくるはずだ。

シリア戦で可能性を示した乾は、2年も選ばれなかったのは謎でしかない。難敵と戦うことで確実に逞しさを増している。それはわずかな出場時間でも証明された。

今回、レギュラーで使い続けた森重真人をメンバー外にし、昌子源をスタメンで使った。これは遅すぎた決断とも言えるが、英断だろう。不甲斐ない戦いの中、少ない収穫の一つとなった。

昌子は集中力が高く、常に次のプレーを読み、備えられる生粋の守備者。昨年クラブW杯でのプレーを重ねて目に見える成長を遂げた。シリア、イラク戦とミスはあったものの、今後の可能性を感じさせている。

人材を戦術に囚われず、柔軟に選手の才能を使い切れるか――。ハリルホジッチにはその機略が求められている。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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