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スペイン名物記者が一番気になった日本人選手は?

小宮良之スポーツライター・小説家
香川のゴールを祝福する岡崎、本田。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

「(ロシアW杯アジア最終予選、UAE、タイ戦を観たが)サイドの攻守が改善されている。サイドから攻撃が始まっているし、守備では相手の攻撃を封鎖。アジア予選の相手はどこも懦弱だが、戦術的に向上しているのは間違いない」

スペイン人記者のヘスス・スアレスは、ヴァイッド・ハリルホジッチ率いる日本代表の最近の印象を語っている。

スアレスは「ワールドサッカーダイジェスト」でコラムを連載して20年目。最新刊「選ばれし者への挑戦状」(東邦出版)は挑戦状シリーズ第6弾になる。ジョゼップ・グアルディオラから意見を求められ、ジョゼ・モウリーニョと同等に論じ合い、そしてあのヨハン・クライフと共演、対話している。その意見は辛辣で、ときに選手や監督と不和になることも。しかし、誰であろうとスアレスは媚びない。持論を曲げないのだ。

「この少年は必ずジダンのようになる」

スアレスがそう"予言"した十代のアンドレス・イニエスタは、ジダンを凌駕している。当時、その見立てを笑う人が多かった。しかし、今や正しい目利きだったことが証明されている。

「岡崎慎司はヨーロッパで必ず成功するだろう。スペインでも中堅クラブでプレーできる。とても賢い選手で、どう動けばボールを引き出し、ネットに叩き込めるか、をロジカルに理解し、感覚的に実行している」

清水エスパルス時代の岡崎を絶賛していたが、今やプレミアリーグ王者のゴールゲッターである。

では直近の代表戦2試合、スアレスの目に映った「世界標準」の日本代表選手とは誰なのか?

「香川のセンスは教えて身につくものではない」

「UAE、タイ戦を見たが、とにかく相手の弱さは目立った。しかし、いいプレーは誰が相手でも引き立つものだろう。

まず、日本人選手に共通して言えるのは、俊敏で躍動感はあるが、いささかプレーを急ぎすぎる点だろうか。これは民族的な特徴で、長所にも短所にも転ぶ。いずれにせよ、"時間を操る"という感覚は必要だろう。例えばサウジアラビア戦で一番いいプレーは、左サイド本田圭佑と長友佑都が生み出したPAUSA(停止)だった。パス交換やキープでため(時間的猶予)を作ることで、相手の動きの裏をとり、スピードはアップする。それは単純な走力よりも勝るものだ。

UAE戦は守備で粗さが目立った。人をつかまえきれず、複数で挑みかかり、裏を狙われるシーンも。アンカーの両脇はがら空きで、失点してもおかしくない場面があった。

もう一つ、日本代表はジーコが率いていたときから、セットプレーの対応に難を抱えている。今はマンマークでディフェンスしているが、十分ではないように見受けられる。ゴール内に人を立てるのも、ニアだけでなくファーもか、完全にクリアするまで動かないという原則を守れているか。ディフェンスの決めごとに関して、もっと細かい決めごとが必要で、跳ね返りの予測なども甘さが見られる。

一方、攻撃に関しては中盤でボールを握る力が強い。トライアングルを形成し、心地よい攻撃を繰り出せる。ザッケローニ監督のときは顕著だったが、ここは日本のストロングポイントだろう」

スアレスは日本代表の攻守について前置きをしてから、選手について論じている。

「まず、GK川島永嗣は堅実さが評価できる。UAE戦は1対1の決定機を阻止したが、非常に落ち着いていた。派手さはないGKだが、集中力が高く、メンタル面で動じない。ヨーロッパでは、オブラク、ルイ・パトリシオなどがそうだが、泰然として安定感があり、計算が立つ。タイ戦のPKはキッカーのボールを倒れたところに呼び込んでおり、完全に心理戦で優っている」

次に評価したのは、香川真司と岡崎だった。

「タイ戦の香川のゴールは、その技量が集約されていた。右サイドからのクロスを止めた後、少しも焦っていない。そして、GKが読むコースとは逆の方向にシュートを放っている。"逆打ち"のセンスは、教えて身につくものではない。ほぼ生来的な技術的非凡さと言えるだろう。

なぜ、岡崎が先発から外れているのか、私は詳しくは知らない。タイ戦のプレーは完璧に近かった。ヘディングシュートはクロスを呼び込んでおり、ニアサイドでマーカーよりも一歩先に出てスペースを制していた。天性のゴールゲッター。私は、デポルティボ・ラ・コルーニャの強化部に推薦したことがある。当時の岡崎はまだ清水にいて、『欧州での実績がない』という評価だった。見る目がないのか、度胸がないのか、言い訳だろう。

ちなみに同じように、注目して強化部に薦めたのが、齋藤学(横浜F・マリノス)だ。UAE、タイ戦では代表に選ばれなかったようだが、彼はリーガエスパニョーラの1部で通用する。性格的な部分は把握してないが、一対一で常に優位に立っているのがいい。ボールを支配し、人を術べ、空間を把握。これはフットボーラーを評価する上で、根源的部分である」

「久保は強く印象に残った」

そして、スアレスが最も高く評価したのは久保裕也だ。

「久保は強く印象に残った。ゴールへの意欲が強く、能動的。ボールをネットに叩き込む、という意志の強さを感じさせる。右サイドで優位を得る起点になっている。

最も目を引いた点は、タイ戦の先制点に至るクロスの前後。ロングパスを受けた右足でのトラップ精度は完璧だった。そして一対一を制しながら、正確なクロスを折り返し。対峙した場面でのCALIDAD(技術センス)はフットボーラーを価値を浮き彫りにする。ポジションの準備、パスを受ける技術、1対1,ボールを動かす技術、キック技術と狂いがない。それを野心的にやってのけている。

UAE戦のゴールはパスを引き出していた。彼の意欲がプレーを旋回させ、シュートまでのイメージも伝わった。タイ戦はスローインを受けたときボールを正しい場所に置き、(右利きだが)左足を振り抜いた。香川が脇を走り込んでいたが、強い意志でシュートを選択。ゴールゲッターとして、自信があるのだろう。日本人の特徴だが、両足を蹴れる選手が多いのはアドバンテージになる」

そして最後に、スアレスはこう締め括っている。

「日本では本田に対して批判が渦巻いているようだが、少なくとも2戦ともプレー内容は悪くはなかった。ポゼッションをもたらせる選手だし、ボールに対して果敢。現時点で、欠かせない選手だろう。もっとも、長く代表でプレーしている選手だけに、後継者は必要になってくるはずだ」

彼の評価が絶対的な正解というわけではない。しかし、一つのガイドにはなるだろう。中立的な視点は貴重である。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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