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「選ぶ選手がいない」ハリルの嘆きは真実か?日本にアフリカ系選手はいない!

小宮良之スポーツライター・小説家
ベンチの本田とハイタッチするハリルホジッチ(写真:田村翔/アフロスポーツ)

「他に代わりは誰かいるか?」

ロシアW杯アジア最終予選のイラク、オーストラリア戦に向けた記者会見、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督はそう言って、出場機会が乏しい欧州組の選出を肯定した。監督の目では「代わりはいない」のだろう。それは一つの道理である。

しかし、一人のリーダーが「自軍の弱み」をさらけ出す必要があるのか? それは戦う前から弁明しているに等しい。

「選んだ選手たちの力を信用している」

それで収まる話である。悲観的で傲岸な言いぐさが、必要以上に混乱と不快さを呼び、信用を失墜させている。喋れば喋るほど、言葉尻を捉えられ、身動きができなくなる。部下(選手)もちょっとしたことに浮き足立つ。これは敗北するリーダーの典型である。

そしてそもそも、本当に選ぶに値する選手はいないのか?

アフリカ系選手と同じ視点で日本人選手を見るべきではない

ハリルホジッチの選考には、"偏見と力み"が透けて見える。ボスニア系フランス人監督はフィジカルをベースに選手を選考。それは体脂肪率などの身体的データを重視していることからでも一目瞭然だろう。

「1対1の局地戦で勝利することによって、全体の局面を有利にする」というのがおそらく理想なのだろうし、その考え方自体は珍しくはない。例えばフランスリーグはアフリカ系の選手が多く、フィジカルインテンシティが基礎になっている。フランス代表の中盤はその色が濃厚。ポール・ポグバ、ブレーズ・マチュイディ、エヌゴロ・カンテ、ジョフレ―・コンドグビア、ムサ・シッソコなど肉体的に相手を打ち負かせる選手が多い。

フランスでプレーし、フランスのチームを率い、アフリカの代表チームも指揮したハリルホジッチとしては、「フィジカルの強い選手でなければ、日本も世界に太刀打ちできない」とスカウティングを論理化しているのだろう。

今回の代表メンバーに新たに招集された永木亮太(鹿島アントラーズ)は、タイプ的にその系統にいるのかも知れない。日本人離れしたパワーを中盤で感じさせる。ハリルホジッチが求めるデュエル(1対1)で強さを発揮する。それ故、所属チームで定位置を確保していないにもかかわらず、選出されたに違いない。

しかしながら、永木にポグバやカンテのような戦闘力を求めるのは酷だろう。

この観点で見た場合、日本人で有力選手を探すのは容易にはいかない。

ハリルホジッチは山口蛍(セレッソ大阪)を重用し、局地戦での激しさを求めている。しかし気の毒なことに、山口はインターセプトを狙い過ぎ、その裏を突かれる傾向がある。過剰にアグレッシブさを求められ、ロンドン五輪前くらいまでのバランスが崩れてしまった。不用意なトライが多くなり、取れないときもあっさりと入れ替わられすぎる。ドイツ、ブンデスリーガで通用しなかったのは必然だろう。

代表監督に就任して1年半になるハリルホジッチだが、他のポジションの選手も着目点がいささかずれている。FWでは走力に長けた永井謙佑(名古屋グランパス)、SBでは俊足の藤春廣輝(ガンバ大阪)、CBでは丹羽大輝(ガンバ大阪)らを選出したが、結局は見限った。なぜなら彼らはフィジカル能力は目覚ましくても、基本的なスキルや連係力で著しく劣る。相手が試合巧者だと、戦術的駆け引きによって造作もなく封じられてしまう。

それを、一目で見抜けなかった。そこにハリルホジッチのスカウティングへの不信がある。

視点を変えれば、Jリーグにも人材は必ずいる。

インテンシティよりもインテリジェンスを求めるべきだろう。状況判断の速さ、連係によってプレーを生み出す賢さ、次のプレーを予測してポジションを取る力、そして適切なタイミングで使えるスキル。これらを持ち合わせた選手を融合することによって、ボールを握り、つなぎ、連動によって試合を優勢に進められる。それは、単なるポゼッションサッカーというのとは違う。

例えばJリーグの中盤では、中村憲剛(川崎フロンターレ)、阿部勇樹(浦和レッズ)、高橋秀人、橋本拳人(FC東京)、田口泰士(名古屋)がフットボールインテリジェンスを持った選手だろう。彼らと長谷部誠(ドイツ/フランクフルト)を融合させることで、十分に期待が持てる。日本人はアフリカ系のスピードとパワーを同時に持ち合わせることはできないが(肉体向上を忘れてはいけないが)、技術やビジョンや構成力を備えた選手はいる。

「それでは世界に勝てない」と言うのがハリルホジッチかもしれないが、彼のやり方ではアジアでも苦しむというのが厳然たる現実である。

欧州王者のポルトガル代表の中盤には、ポグバやカンテのようなフィジカルで局面を制するタイプは少ない。しかし、アンドレ・シルバ、ジョアン・モウチーニョ、アドリエン・シウバ、ウィリアム・カルバリョは人を動かせ、ボールを動かせる。ボールより速く動ける選手はいない。プレースピードの変化だけで上回った。筋力よりも知性の選手たちを束ね、頂点に立ったのだ。

それは日本サッカーにとってのヒントにならないのか?

ともあれ、Jリーグで台頭している選手に目を向けるべきだろう。例えば追加招集になった齋藤学(横浜F・マリノス)は、一人で試合を決められる存在感を示している。体は小さく、アフリカ人選手のように手足が長いわけでもないが、機敏で機転が利く。緩急の変化を自在に操り、今は1対1なら誰も止められない。欧州組が出場機会を得られない中、バックアップに甘んじる必要はないだろう。

監督には「眼鏡」を変えてもらうしかない。さもなくば、苦しい道のりになる。日本サッカーには、アフリカ系のスプリントやジャンプやパワーを持った選手はいないのである。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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