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給料ゼロでもビッグクラブを倒せるか?バルサやマドリーをも引きずり倒す覚悟と結束。

小宮良之スポーツライター・小説家
エルチェのイレブン。(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

サッカークラブが強くなるためには、お金の力は無視できないだろう。年間予算の高いクラブと欧州で覇権を争うクラブの名前は符合する。強い集団は、経済的要因に後押しされている場合が多い。昨今ではチェルシー、マンチェスター・シティ、パリ・サンジェルマンが「金に物を言わせるだけの金満クラブ」と陰口をたたかれながらも、実際に覇権をつかんでいる。

貧すれば鈍する、という諺もあるように、"貧乏"は勝利をつかめないのだろうか?

今シーズン、クラブ史上初めてリーガエスパニョーラの1部に昇格したエイバルは、18チーム中最低年間予算にもかかわらず、4~5倍の予算=戦力のあるチームとも五分に近い戦いを演じている。30倍以上の予算差のあるレアル・マドリー、FCバルセロナとも拮抗。"持たざる者"の意地を見せつけている。

牛追い祭りで有名なパンプローナにあるオサスナは、昨シーズンあえなく2部に降格したものの、10年以上も1部の座を守ってきた。気骨のあるクラブで、本拠地で迎え撃った敵は、「無傷で返さない」とスタジアム中が相手チームに罵声と怒声を浴びせ、味方チームを鼓舞する。資金力には恵まれていないが、その"熱さ"でバルサ監督時代のジョゼップ・グアルディオラが「最も警戒した」というスタジアムの一つである。

しかし、エイバルやオサスナの選手たちは富裕ではなくとも、相応の給与を得ている。

給料なしでも、サッカー選手は戦い続けられるか?

2010年6月、カタール王室の一員でもあるシェイク・アル=タニが、3600万ユーロでマラガを買収。2011年1月から本格的にチーム強化に乗り出し、チリの名将マヌエル・ペジェグリーニを筆頭に、マルティン・デミチェリス、ジュリオ・バティスタなどをオイルマネーを使って加入させた。

そして2011-12シーズンは10人以上の在籍選手を放出する一方、ルート・ファン・ニステルローイ、ヨリス・マタイセン、ジェレミー・トゥララン、サンティ・カソルラ、ホアキン・サンチェスなど有力な選手を揃えた。目に見えた戦力向上のおかげでリーグ4位に入り、チャンピオンズリーグ出場権を獲得。それは中位以下が定位置だったクラブ史上、初の快挙だった。

しかしアル=タニは2年足らずでクラブを強くすることに興味をなくしてしまう。

アル=タニは元々はマラガを買い占めてから、一大リゾート地を作ろうとしていたが、地域行政の協力を得られないことで無気力になってしまった。そして2012-13シーズンは、カソルラ、マタイセン、ロンドンなど主力選手を次々に売却。選手の給料は大幅にダウンした。そして未払いという問題に発展する。UEFAからは財政上の理由から「4シーズンの欧州カップ戦出場停止」を言い渡された。隆盛を迎えたかに見えたマラガは、危地に立たされることになった。著しい戦力ダウンを強いられ、普通であれば選手たちの士気は極端に低下していたに違いない。

ところが、マラガは挫けなかった。

「たしかに多くの選手がいなくなってしまったが、チームはここにある。たとえゼロからだってスタートさせればいい。選手たちはなにかを見せるだけの力は備えている。私は彼らを信じているし、なにもネガティブには考えていない」

ペジェグリーニ監督は開幕前の記者会見で静かにそう檄を飛ばした。麾下の選手たちはそれを意気に感じて戦うようになった。その結果、リーガでは常に上位を争い、チャンピオンズリーグではベスト8に進出し、ドルトムントをあと一歩のところまで追い詰めている。監督と選手たちは組織が崩壊同然の中、むしろ結束を固めた。下部リーグから来た選手や「老体」と揶揄されたハビエル・サビオラやホアキン・サンチェスが「本気を見せる」と蜂起したのである。

潤沢な資金を持った組織が、必ずしも勝つわけではない。フットボーラーとして生まれた男たちが意地や誇りを懸けて戦うとき、その熱量は予想を超える。2009-10シーズンのマジョルカも、数ヶ月の給料未払いが続いていたが、チャンピオンズリーグ出場権の順位を得た。面白いことに、スペインやスペイン語圏の選手たちは、論理的ではない思考展開で偉業を果たすときがある。

今シーズンも、エルチェでは2ヶ月以上、選手、クラブスタッフと給料未払いが続いているが、戦闘意欲はまったく萎えていない。第34節ではデポルティボ・ラ・コルーニャを4-0と下し、1部リーグ残留に一歩近づいた。

「覚悟を見せてやる」と選手、スタッフが一体になったとき、外からでは計り知れない強い絆が生まれ、反骨心で燃え立つ。

無論、無給では戦い続けることはできない。来季に向けては財政再建が不可欠となる。しかし、貧した選手たちは今を真剣に生きることで、次の道を切り開いている場合も多い。すなわち、こうした苦難を切り抜けたチームの選手というのは、どこのクラブも引く手あまたの存在となる。無給でも力を出せるような精神的にタフな選手は、必ずや集団の中で力を与えてくれるからだ。

<給料が出ない>

もしかすると、そんなときにサッカー選手というよりは人間としての真価が問われるのかもしれない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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