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テレビ「マイファミリー」がドラマアカデミー賞を獲得 こうも違う「誘拐事件」のリアルとウソ

小宮信夫立正大学教授(犯罪学)/社会学博士
『マイファミリー』(C) TBS

「ザテレビジョン ドラマアカデミー賞」で、TBS系列の「マイファミリー」が、作品賞、主演男優賞、助演男優賞、監督賞、脚本賞の5冠を獲得した。

誘拐事件がストーリーやプロットになっているので、犯罪学者の視点から、このドラマを眺めてみたい。なお、これからご覧になる方のためにネタバレは控える。

犯罪の見方はこうも違う

筆者は、犯罪系のドラマや映画を、半分は趣味で半分は研究目的でよく見る。

もっとも、「犯罪機会論」の普及をライフワークにしているため、作品が「犯罪機会論」に合致していれば好感を持ち、それと真逆な「犯罪原因論」べったりであれば、悪い印象を持つ。

日本では、「犯罪機会論」ではなく、「犯罪原因論」が支配的だ。「犯罪原因論」は、読んで字のごとく、犯罪の原因を明らかにしようとするアプローチだが、犯罪の原因は犯罪者の動機にあるので、犯罪の動機を生む「性格や境遇」を重視することになる。「なぜあの人が?」というアプローチだ。

その結果、日本では「人」に注目することになり、防犯を話し合うため人々が集まれば、必ずと言っていいほど「不審者」という言葉が登場する。

しかし、海外では「不審者」という用語が使われることはない。海外の防犯対策は、「犯罪機会論」が担っているからだ。

「犯罪機会論」は、犯罪の機会(チャンス)を明らかにしようとするアプローチだが、犯罪の機会、つまり犯罪が成功しそうな雰囲気を作り出すのは時空間なので、犯行現場になりやすい「場所の景色」を重視することになる。「なぜここで?」というアプローチだ。

このように、「犯罪機会論」は、犯罪の動機を抱えた人が犯罪の機会に出会ったときに初めて犯罪は起こると考える。動機があっても、犯行のコストやリスクが高くリターンが低ければ、犯罪は実行されないと考えるわけだ。

それはまるで、体にたまった静電気(動機)が、金属(機会)に近づくと、火花放電(犯罪)が起こるようなものである。

犯罪原因論な作品と犯罪機会論な作品

こうした2つの犯罪観は、そのまま作品に反映されることになる。つまり、日本のドラマや映画は「犯罪原因論」に影響され、海外のドラマや映画は「犯罪機会論」に影響されるのである。

日本のドラマや映画で、見るからに異常という「不審者」がしばしば登場するのはそのためだ。しかし、実際の犯罪者は見ただけでは分からない。シリアルキラーといえども、ほとんどが「いい人」と周囲には思われていた。

分かりやすい動機が描かれるのも、「犯罪原因論」にどっぷりつかっているからだ。この点、「マイファミリー」では、誘拐動機や隠ぺいのモチベーションは分かりにくい。しかしそれこそが、リアリティなのである。

人の性格や境遇は千差万別なので、犯罪の動機や原因も人それぞれだ。そのため、「分かりにくい」が普通である。しかし、「犯罪原因論」に洗脳されていると、動機や原因を単純化して、分かりやすくしようとする。

「犯罪原因論」の視点から編集された事件ニュースのシャワーを浴びすぎると、事件をとらえる感覚が短絡的になり、動機と犯罪を直線的に結びつけたがるのだ。だが、主観的な「犯罪原因論」を客観的に描くことは不可能である。

対照的に、客観的な「犯罪機会論」は客観的に描きやすい。にもかかわらず、日本のドラマや映画は、「犯行の機会」というリアリティを無視することが多い。

例えば、「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」では、誘拐犯が防犯ブザーを取り上げていなかったので、倉庫に監禁された子どもが防犯ブザーを鳴らしている。しかし、岡山県倉敷市の女児監禁事件(2014年)では、誘拐犯は女児のGPS機能付きの携帯電話を用水路に捨てている。

さらに、「踊る大捜査線」では、犯人が誘拐場所として選んだのはガードレールのある道だった。しかし、過去の誘拐事件では、ガードレールのない道が選ばれている。車を使う誘拐犯にとっては、「入りやすい場所」だからだ。

「犯罪機会論」の研究の結果、犯罪が起きやすいのは「入りやすく見えにくい場所」であることが、すでに分かっている。

子どもの誘拐事件は、基本的に、物色→接触→連れ去りという3つの段階から成るが、犯罪者にとって、「入りやすく見えにくい場所」は、一連の行為が問題なくできる場所なのだ。

この点、「マイファミリー」では、そうした場所で犯罪が起きていた。

海外のドラマや映画には、「犯行の機会」というリアリティの高い作品が多い。

例えば、アメリカ映画「フォーリング・ダウン」では、「機会の連鎖の結果が犯罪」というリアリティが的確に描かれている。

誘拐事件にフォーカスした映画なら、「羊たちの沈黙」「プリズナーズ」「ルーム」が秀逸だ。

『ザ・ミッシング』(C) BBC
『ザ・ミッシング』(C) BBC

犯罪を扱ったテレビドラマなら、イギリスの「ザ・ミッシング」、アメリカの「トゥルー・ディテクティブ」「ホステージ」、台湾の「悪との距離」、韓国の「ペーパー・ハウス・コリア」が、プロットからディテールに至るまで、「犯罪機会論」に忠実なリアリティを追求している。

それらは、「犯罪原因論」にどっぷりつかっている人にとっては、違和感のあるドラマかもしれない。しかし、「犯罪機会論」の思考に慣れた人にとっては、納得できるドラマに違いない。「人の行動は状況や環境に対する応答である」という人間観がよく表れているからだ。「マイファミリー」も、それらと肩を並べる日本発の秀逸ドラマである。

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士

日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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