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虚偽や陰謀論、暴力賛美、憎悪表現はびこるSNS 米議会がFBやツイッターの監視強化

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

米フェイスブック(FB)は先ごろ、2020年12月までの3カ月間で13億件超の偽アカウントを無効にしたと明らかにした

同社では偽アカウントを利用した国内外の秘密工作に対し確固たる姿勢で取り組んでいるという。過去3年間で100件以上の組織的不正行為(CIB)ネットワークを削除したとしている。

米下院、公聴会でSNS3社を厳しく非難

現在は3万5000人以上が虚偽情報対策に従事していると説明。これらのスタッフが新型コロナやワクチン関連の虚偽投稿を1200万件以上削除したという。

こうした中、米議会の下院エネルギー・商業委員会がフェイスブックや米ツイッター、米グーグル傘下の米ユーチューブなどSNS(交流サイト)運営企業の偽情報対策を調査する方針だとロイターなどが報じた

下院エネルギー・商業委員会の2つの小委員会は21年3月25日にフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)やツイッターのジャック・ドーシーCEO、グーグルのスンダー・ピチャイCEOを呼んで公聴会を開いた。

FBのザッカーバーグ氏、グーグルのピチャイ氏、ツイッターのドーシー氏(ロイター)
FBのザッカーバーグ氏、グーグルのピチャイ氏、ツイッターのドーシー氏(ロイター)

議員らは、虚偽情報や危険なコンテンツに対する3社のアプローチを広範にわたって厳しく非難。一部の議員は、SNS企業の法的責任を追及する姿勢を強めた。

虚偽情報や陰謀論などへの対策強化

米国では、新型コロナの感染拡大以降、虚偽の主張や陰謀論などの投稿がまん延した。20年8月にはフェイスブックが、陰謀論を唱える集団「Qアノン」関連のコンテンツを大量削除。同社は約900件の公開ページとグループ、約1500本の広告を削除し、300個以上のハッシュタグを無効にした。

暴力の助長につながる根拠のない説を主張するコンテンツを一掃する取り組みの一環とし、約2000件のフェイスブック・グループと約1万件のインスタグラム・アカウントに制限をかけた。

一方、グーグルは20年7月、コロナ関連の虚偽情報を掲載するウェブサイトやアプリに対し、広告配信システムの利用を禁じる措置を講じた。

対象は、科学的根拠のない「危険なコンテンツ」。具体的には「コロナは作り話」「生物兵器として中国の研究所で作られた」「米マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏が製造した」といった事実に反する陰謀論を唱えるサイトなどを対象にした。

また、グーグル傘下の米ユーチューブは20年10月、陰謀論を利用して個人や団体を攻撃するコンテンツを禁止すると発表した。ヘイトスピーチ(憎悪表現)とハラスメントのポリシーを改定。特定の人物や団体が「Qアノン」や「ピザゲート」などの陰謀論に加担していると主張し、陥れようとする動画などを禁じた。

ユーチューブは数万本のQアノン関連動画を削除。暴力を加えると脅したり、実際にあった暴力事件を否定したりするものを削除対象にした。

ツイッターは、トランプ前米大統領の対応に追われた。20年5月にミネアポリスで白人警官に取り押さえられた黒人男性が死亡した事件が起きたが、トランプ氏はこれに関し「略奪が始まれば、銃撃も始まる」と投稿。ツイッターは「暴力の賛美に関するツイッターのルールに違反する」と注記をつけ、表示を制限したり、コメントなしのリツイートや「いいね」、返信を禁止したりした。

トランプ氏の投稿はそれでも続いた。内容は、不正選挙や選挙結果が出ていない州での勝利をほのめかすものなど、多くが根拠のないもので、ツイッターはそれらすべてに対応した。

21年1月8日、ツイッターはトランプ氏のアカウントを永久停止。同氏との戦いは終結した。だが、米ニューヨーク・タイムズは、ツイッターには依然として選挙や新型コロナ関連の誤情報がまん延しており、同社は今も対応に追われていると報じた。

SNS保護する現行法見直しへ

20年10月、共和党主導だった上院の商業科学運輸委員会もツイッターやフェイスブック、グーグルの経営トップ3人を呼び、公聴会を開催した。この時焦点となったのが米国で1996年に制定された通信品位法(CDA)の第230条。

同条は利用者の投稿についてSNS企業の法的責任を免除する一方、SNS企業の裁量による投稿の削除を認めている。トランプ氏や共和党議員の多くはかねて、「同条の保護の下、SNS大手は言論を検閲している」と批判していた。バイデン大統領も同条の撤廃を呼びかけていたとされる。

ロイターは21年3月21日、下院司法委員会反トラスト小委員会のシシリーニ委員長(民主党)がグーグルや米アップル、フェイスブック、米アマゾン・ドット・コムのいわゆる「GAFA」を対象にした複数の法案を準備していると報じた

同委員長は比較的小規模の法案を10以上提出する計画。テクノロジー大手やそのロビイストからの批判や抵抗のリスクを下げる狙いがあるという。

下院反トラスト小委員会は20年10月にまとめた調査報告書で、GAFA4社がそれぞれの市場で独占的な力を享受していると結論付け、同法の改正や法執行の強化を求めていた。シシリーニ委員長は通信品位法第230条に関する法案も準備中だとロイターは報じている。

  • (このコラムは「JBpress」2021年3月24日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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