アップルとフェイスブックが舌戦、両CEO対立激化の背景
米フェイスブックが、米アップルのスマートフォン「iPhone」とタブレット端末「iPad」用フェイスブックアプリなどに利用者の同意を求める独自のポップアップ画面を表示すると、米CNBCなどが報じた。アップルが今春からの導入を予定する同様の同意画面に対抗するという。
情報収集の意義訴える考え
フェイスブックは「オーディエンスネットワーク」と呼ぶサービスで提携先のモバイルアプリに広告を配信している。
アプリの運営企業は、フェイスブックが収集したユーザー情報に基づき、個々の利用者に最適化された広告配信を受けられる。このとき重要になるのが対象となる利用者を絞り込むターゲティング機能だ。
しかし、かねて個人情報保護の姿勢を鮮明にしているアップルは今春からアプリの広告制限を実施する予定。ターゲティング広告の配信時に必要となる端末固有の広告用識別子「IDFA(Identifier for Advertisers)」をアプリが取得する際、ポップアップ画面を出し利用者に許可を求めることを義務付ける。
ただ、この新ルールが導入されれば、多くの利用者が追跡を拒否すると予想される。これにともない、ターゲティング機能の精度が下がり、アプリ運営企業の広告収入が著しく減少するとみられている。
その対抗策として今回フェイスブックが打ち出したのが独自同意画面だ。同社はここでターゲティング広告に関する情報を表示し、それがアプリ運営企業の事業を支えていることを説明。IDFA取得の意義を訴え、同意を増やしたい考えだ。
利用者は、フェイスブックの独自画面とアップルが義務付けた画面の両方で同意を求められることになる。ただ、CNBCは、アップルが義務付けた画面での意思表示が最終的な判断になると報じている。
つまり、ユーザーがフェイスブックの画面で同意したとても、アップルの画面で拒否すれば、IDFAの取得は不可能になる。
クックCEOとザッカーバーグCEOが舌戦
個人情報保護の方針を巡り、表面化してきたフェイスブックとアップルの対立が激しさを増していると伝えられている。ロイターは、アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)がSNS(交流サイト)上で広がっている分断や誤情報を批判したと報じた。
名指しすることは避けたものの、フェイスブックのビジネスモデルと、暴力や虚偽情報などの社会問題を結びつけたという。これは、クック氏が欧州のコンピューターとプライバシー、データ保護の国際会議でビデオ演説したもの。
同氏は「アルゴリズムによって虚偽情報や陰謀論がまん延しているこの状況で、可能な限り多くのデータを収集することを目指し、あらゆるエンゲージメントを良しとする理論に、もはや目をつぶることはできない」と述べた。
「誤情報を発信するユーザーや、データ搾取、他の選択肢がない状況をつくることで成り立つビジネスは、称賛に値せず、むしろ軽蔑に値する」とも批判したという。
一方、CNBCによると、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは先の決算発表の電話会見で、アップルの個人情報保護の新方針に言及し、自社の事業に影響が及ぶ恐れがあると警告した。
同氏は「アップルが最大の競合の1つになるとの考えが強まってきた」と述べるとともに、「独占的なプラットフォームの地位を利用して他社アプリの邪魔をしようとする強い意思がある」とアップルを非難した。
米メディアのジ・インフォメーションは、フェイスブックがアップルを相手取った反トラスト法(独占禁止法)訴訟の準備を進めていると報じた。
好調なフェイスブック業績
米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、フェイスブックの広告配信事業「オーディエンスネットワーク」は、同社の「マーケットプレイス」事業部門に分類されており、同部門と仮想現実(VR)部門を合わせた「その他」項目が急成長している。
その2020年10〜12月期おける売上高は前年同期比約2.6倍の8億8500万ドル(約962億円)だった。
もっとも、主力のSNS広告は、これを大きく上回る規模だ。20年10〜12月期の売上高は同31%増の271億8700万ドル(約2兆9500億円)だった。
同四半期の全体の売上高は前年同期比33%増の280億7200万ドル(約3兆500億円)、純利益は同53%増の112億1900万ドル(約1兆2200億円)で、いずれも四半期として過去最高を更新した。新型コロナウイルスの影響で電子商取引需要が急増し、主力の広告事業が好調だった。
フェイスブックの20年12月末時点の月間利用者は約28億人で、1年前から12%増加。写真共有アプリ「Instagram」や対話アプリ「WhatsApp」などのサービスを含むグループ全体の月間利用者は同14%増の33億人だった(決算資料)。
- (このコラムは「JBpress」2021年2月3日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)