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「アップル」ブランドの乗用車、24年までに生産開始か 韓国・現代自と交渉中

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

 米アップルが進める電気自動車(EV)生産計画についてロイターは1月20日、韓国・現代自動車の系列自動車メーカー、韓国・起亜が業務を担当することを決めたと報じた。起亜は同日、自動運転のEV開発で複数の外国企業との提携を検討していると明らかにしたという。

次世代のEVバッテリー開発中

 これに先立つ1月上旬、現地メディアはアップルと現代自が、EVやEV向けバッテリー(2次電池)に関して協議していると報じた。現代自はその直後、アップルとの「初期の段階の交渉」を認めている。

 ロイターの20年12月の報道によると、アップルは自動運転技術の開発を進めており、2024年までの乗用車生産開始を目指している。

 アップルが開発戦略の中心と位置付けているのは次世代EV用バッテリー技術。価格を大幅に抑え、1回の充電で走れる航続距離を延ばせる技術だという。

 自動運転車を開発している企業には米グーグル系の米ウェイモがあるが、同社は「ロボットタクシー」とも呼ばれる配車サービス用車両を手がけている。これに対しアップルは、一般消費者向け「アップルブランド」の乗用車を開発中だと関係者は話している。

曲折を経た自動運転開発プロジェクト

 アップルは2014年に「タイタン・プロジェクト」と呼ばれる自動運転開発の取り組みを始めた。

iPhoneを車載ディスプレーや音声で操作できる「CarPlay」
iPhoneを車載ディスプレーや音声で操作できる「CarPlay」写真:ロイター/アフロ

 プロジェクトは当初、膨大な数の人員と費用を投じて技術開発に取り組んでいたものの、その後曲折があったと言われている。18年には計画を縮小し、自動運転のソフトウエア開発に注力する方針を打ち出したと報じられた。

 だが、今回の報道によると、アップルの元ハードウェアエンジニアで、米EVメーカーのテスラに移籍していたダグ・フィールド氏が18年にアップルに復帰し、責任者になった。

 それ以降、プロジェクトは「十分に進展」し、消費者向けEVの製造を目指すまでになったという。

 アップルは18年、グーグルに8年在籍し、AI(人工知能)や検索の責任者を務めていたジョン・ジャナンドレア氏を採用し、同氏をAI戦略担当シニアバイスプレジデントとして役員チームに加えた。アップルではその後AI企業の買収が加速した。

AI企業を次々と買収

 例えば、翌19年にはシリコンバレーの自動運転開発企業ドライブ・エーアイ(Drive.ai)を買収。この企業は、スタンフォード大学のAI研究所の科学者らのグループによって設立され、自動運転や、他車ドライバーや歩行者とコミュニケーションを取るシステムの開発を手がけていた。

 こうした企業買収がアップルの自動運転事業を大きく進展させたと言われている。同社は20年1月、エックスノア(Xnor)というAI技術の企業を買収したとも報じられた。

 こちらは、AIをクラウドサービスのデータセンターではなく、スマートフォンやスマートホーム機器、車載機器といった端末上で実行する技術を開発している。

 このスタートアップ企業が当初手がけた機器は、顔認識AIで人物を判別し、警報を送ることができるセキュリティーカメラや、小売店の商品棚をモニターし、在庫管理を手助けする機器など。「エッジAI」とも呼ばれるこうした技術は、自動運転分野の応用が期待されている。

 一方、ロイターは関係者の話として、アップルが自社ブランドのEVを販売するのではなく、自動車メーカーにシステムを供給するのみにとどまる可能性もあるとも報じている。

 アップルがEVを販売するとなれば、スマートフォン「iPhone」などと同様に、製造を外部の提携企業に委託することになる。しかし、自動車の製造は複雑で、サプライチェーンを構築することは容易ではないという。

グーグルやGM、アマゾン、テスラも開発急ぐ

 自動運転分野は開発競争が激化している。例えばグーグル系のウェイモは20年10月、アリゾナ州フェニックスでドライバーが乗車しない完全自動運転の配車サービスを一般提供すると明らかにした。

米グーグル系ウェイモの自動運転車
米グーグル系ウェイモの自動運転車写真:ロイター/アフロ

 米ゼネラル・モーターズ(GM)子会社の米クルーズも20年10月、カリフォルニア州サンフランシスコで、自動運転の無人公道試験走行を開始すると明らかにした。

 米マイクロソフト(MS)は21年1月19日、GMやクルーズと提携すると明らかにした。クラウドとエッジコンピューティングの基盤「Azure」を提供し、クルーズが開発する自動運転車の商用化を後押しする。

 米アマゾン・ドット・コムは20年6月、自動運転技術を手がける米国のスタートアップ企業、ズークス(Zoox)を買収することで同社と合意した。同7月には、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が、場所の制限なく完全自動運転で走る「レベル5」を近く実現できるとの認識を示している。

 このほか、米スタートアップ企業のニューロは20年12月、カリフォルニア州で自動運転車を使った商業サービスの認可を取得したと発表。無人車で同州の公道を走行し、有料の宅配サービスを提供する初の企業になるという。

画像出典:米ニューロ(Nuro)
画像出典:米ニューロ(Nuro)

 ニューロは16年創業で、カリフォルニア州マウンテンビューに本社を置く。同社はトヨタ自動車のプリウスを改造した車両で宅配を始める予定。ハンドルやアクセルペダルなどを備えない自社開発の「R2」を使ったサービスも計画している。

  • (このコラムは「JBpress」2020年12月23日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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