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サムスンの何が問題だったのか、起爆剤と期待の「折り畳みスマホ」9月発売も購買意欲は低下

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

 韓国サムスン電子は先ごろ、折り畳み式スマートフォン「Galaxy Fold(ギャラクシーフォールド)」を9月から発売することを明らかにした

配布した試用モデルに不具合

 同社が昨年11月に発表し、未来のスマートフォンと自賛していたモデルだ。当初は今年4月下旬に米国で発売する予定だった。だが、発売を前にジャーナリストらに配った試用モデルの一部で不具合が報告された。

 米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、あるジャーナリストはディスプレーを覆っている透明のフィルム状のものを剥がしてしまった。

 新品の製品に貼られている保護フィルムと思って剥がしたが、これはディスプレーの強度を保つための重要な部品だった。

 また、ヒンジ部分に関連する問題や画面のちらつきといった不具合も報告されたという。サムスンは声明で、これらの問題に対処し、ヒンジ部分などの強度を高めたと説明している。

 Galaxy Foldは、広げるとタブレットのように大きな画面で操作でき、折り畳むと、手のひらや小さなポケットにすっぽり収まる。折り畳み時は、外側にあるもう1つのディスプレーが動作し、従来のスマートフォンのように利用できる。

発売延期の代償は大きい

 スマートフォンの販売は世界的に頭打ち状態。サムスンは市場回復の起爆剤になり得る新奇性のあるGalaxy Foldで、需要を喚起したい考えだ。だが、ロイター通信は発売の延期はサムスンにとって高くついたと指摘している

 ロイターによると、Galaxy Foldはスマートフォンの販売が鈍る夏の時期に売り上げを押し上げるための重要な製品だった。

 サムスンは今年、Galaxy Foldを100万台製造するという計画を立てていた。

 しかし、延期が発表されてから消費者の購買意欲は著しく低下した。「今となっては年内に30万台を販売できれば、いいところ」とアナリストは分析しているという。

ファーウェイもつまずき

 スマートフォンの世界販売で米アップルを抜いて2位に浮上した中国ファーウェイ(華為技術)も、今年2月に「Mate X」と呼ぶ折り畳み式スマートフォンを発表した。

 だが、ファーウェイも当初予定の6月に発売できなかった。発売時期は9月にずれ込むとも言われているが、先ごろは11月以降になる可能性もあると報じられた。

「折り畳みは市場回復の切り札にならない」

 もっとも、折り畳み式は市場回復の切り札にはならないとみるアナリストもいる。これらの端末は最新技術を盛り込んでおり、一般的なスマートフォンよりも高額だ。

 これまでに明らかになった情報では、Galaxy Foldは最も安いモデルでも1980ドル(約21万円)、Mate Xは2299ユーロ(約28万円)。

 米調査会社ガートナーは、この形態の端末は価格が障壁になると指摘。その出荷台数は2023年時点でも3000万台止まりで、高価格帯スマートフォンのわずか5%にとどまるとみている。少なくとも5年間、折り畳み式はニッチ製品であり続けると予想している。

  • (このコラムは「JBpress」2019年7月26日号に掲載された記事をもとに、その後の最新情報を加えて編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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