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許されるのか? 巨人アマゾンが競合を妨害する実験とは

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

 米アマゾン・ドットコムは、先ごろ、自社のショッピングアプリ内で、より低価格商品をポップアップ表示する実験を行った、と米ウォールストリート・ジャーナルが伝えている。これが、一時的にも競合商品の表示を妨害する行為だというから、驚きだ。

ポップアップウインドウで自社商品を売り込む

 例えば、利用者がアマゾンのアプリ内で、「単4電池」を検索し、検索結果の一覧画面から「エナジャイザー(Energizer)」の電池をタップして表示させる。すると、その直後に、エナジャイザーの商品よりも低価格の乾電池を表示するポップアップウインドウが表れる。

 この実験で表示されたのは、アマゾンのプライベートブランド(PB)「AmazonBasics」の乾電池だった。ポップアップウインドウは、スマートフォン画面の半分ほどを占めており、エナジャイザーの製品は、暗いグレー色に覆われて表示された。

 そして、利用者は、このウインドウを閉じるか、アマゾンの商品をタップして、そちらの画面に進むかのいずれかを選択しない限り、買い物を続けられない。

 実験は、すでに終了しており、現在こうした表示はなくなった。アマゾンは「顧客に、より低価格の商品があることを示しただけ」とし、広告ではないと説明。「我が社のPB商品が、優先して表示されたわけでもない」とも述べている。

プライベートブランド、消費財メーカーへの脅威に

 同社は、2016年半ばから低価格PB商品の展開を本格化させている。乾電池などのAmazonBasicsのほか、赤ちゃん用紙おむつの「Mama Bear」、栄養補助食品の「Happy Belly」といった多種多様なPBを開発し、今では、120種以上のブランドを持つ。

 米メディアによると、アマゾンはこれらのPB分野でシェアを伸ばしつつある。米国eコマース市場におけるアマゾンの売上高シェアは、ほぼ5割に達しているという状況。

 こうした中、同社の影響力はますます高まっている。もし、今回行った実験が本格的に始まれば、消費財メーカーのビジネスが脅かされるおそれがある。 

 また、今回の実験は、実店舗における商品陳列の慣習とは異なると、ウォールストリート・ジャーナルは指摘している。

 大手スーパーの店舗にも、PB商品を陳列する特別な売り場スペースがある。だが、通常は、その陳列棚の横に、消費財メーカーの棚もあり、消費者は双方の商品を手に取って比べることができる。

 今回は、消費者がそれらメーカーの商品を見るという行為を、一時的にも妨害した点が、異なると、同紙は伝えている。

 はたして、このような商品表示が本格的に始まるということはあるのだろうか。また、そんなことは許されるのだろうか?

アマゾンの新たな収益源「広告」が急成長

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 最近のアマゾンは、自社eコマースサイトの収益最大化を図る動きが活発で、今回の実験も、その一環と言えそうだ。

 そのうちの1つが、ネット広告事業である。例えば、昨年(2018年)9月ごろから、アマゾンのサイトで表示される広告が、急速に増えたと指摘されている。

 アマゾンはサイトで、「スポンサーリンク」や「スポンサープロダクト」といった広告商品を展開している。これらはいずれも利用者が入力した検索キーワードや閲覧内容に関連するスポンサー企業の商品を、検索結果ページや商品詳細ページに表示するもの。同社はスポンサーから広告料を受け取っている。

 世界最大のネット広告市場である米国では、依然、米グーグルと米フェイスブックの複占が続いている。だが最近は、アマゾンの広告収入が急速に伸びており、2強のシェアを奪っている。米国の市場調査会社eマーケターによると、今年、アマゾンの広告収入は昨年から50%超増え、シェアは昨年の6.8%から8.8%に拡大する見通しだ(図1)。

  • (このコラムは「JBpress」2019年3月19日号に掲載された記事をもとに、その後の最新情報を加えて編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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