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Amazon、スマートホームの本格展開が競合を脅かす

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
セキュリティカメラ「Amazon Cloud Cam」(出典 : 米アマゾン)

 昨年末の話になるが、米アマゾン・ドットコムは、防犯カメラやビデオドアホンなど、住宅用のセキュリティ機器を手がける米国の新興企業を買収した。

100万ドルの資金調達に成功した新興企業

 その具体的な目的は分かっていないが、「Amazon Echo」をはじめとするAI(人工知能)アシスタントの分野で、スマートホーム関連のサービスや製品に注力していくことが、狙いではないかと、海外メディアは報じている。

 アマゾンが買収した企業は、ブリンク(Blink)と言い、マサチューセッツ州ボストンから30キロメートル離れたアンドーバーに本社がある。

 従業員50人ほどの小さな企業で、創業は2014年。クラウドファンディングで100万ドル(約1億1300万円)の資金を調達し、2016年に本格的な事業を開始した。

安さが売り文句のセキュリティ機器

 ブリンクの製品には、屋内や屋外に設置するセキュリティカメラがあるが、他社製品との違いは、価格が99ドルからと安価なこと。配線が一切不要で、設置が容易なことも同社製品の特徴。

 カメラが捉えた映像は、Wi-Fi経由で利用者のスマートフォンに映し出す。単3電池2個で、1年稼働するという点も優れていると米ザ・バージは伝えている。

 ブリンクは2016年1月に、このカメラの屋内用モデルを発売したあと、昨年12月初旬に屋外用モデルを発売した。また、同月中旬には安価なビデオドアホンも発表した。

 ブリンクの声明は、当面、アマゾン傘下の企業として、これまでどおり、製品の販売と顧客サポートを続けるとしており、同社はアマゾン事業との連携について何ら明らかにしていない。

 だが、同社の製品が、アマゾンのAIアシスタントサービス「Alexa」に対応している点が興味深いと言えそうだ。

アマゾンが狙うスマートホーム関連サービスとは

 もう1つ、興味深いのは、アマゾンがここ最近、スマートホームやホームセキュリティ関連の分野に取り組んでいる点だ。

 例えば、同社は昨年10月に「Amazon Cloud Cam」というセキュリティカメラを発売した。

 これは、有料会員プログラム「Prime」の会員向けに始めた、不在時宅内配達サービス「Amazon Key(アマゾン・キー)」に用いるカメラだ。

 米国では、商品配達時に受取人が不在の場合、荷物を玄関ドアの前に置いていくのが一般的。

 しかし、この方法では、商品が雨に濡れたり、盗難に遭ったりするといった問題がある。そこで考えたのが、この新サービスだ。

 配達ドライバーが、顧客自宅の玄関ドアの鍵を開け、商品をドアの内側に置き、再び施錠していくというもので、スマート電子錠、スマートフォン用アプリ、屋内セキュリティカメラの3つを組み合わせ、安全を確保する。

 さらにアマゾンは、これを発展させ、不在時でも、ハウスクリーニング、リフォーム・修繕、水道工事といった住宅関連サービスを依頼できる仕組みを計画している。

 一方、ブリンクは、その事業展開の一環として、顧客宅を遠隔監視するホームセキュリティサービスを計画している。

 こうして見ると、アマゾンとブリンクは実に相性が良い企業と言えそうだ。

 アマゾンは今後、ブリンクの技術を使ってAmazon Keyのセキュリティを高めていくのか、あるいは、自らホームセキュリティ市場に参入するのか。今のところ次の展開は分からない。

 だが、少なくとも、この動きが競合企業に脅威を与えることは、間違いなさそうだ。

(このコラムは「JBpress」2017年12月27日号に掲載した記事をもとに、その後の最新情報などを加えて編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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