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新機軸が見られなかったiPhoneの発表会 「アップルには“驚きの要素”が必要」

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー

事前報道にあったように、米アップルは10日にカリフォルニア州クパチーノの本社で開いたイベントで「アイフォーン(iPhone)」の新モデルを発表した。

iPhone 5 の後継となる「iPhone 5s」と、同社初の廉価モデルとなる「iPhone 5c」 の2機種で、前者は最新プロセッサーを搭載し、処理性能が向上、新たに指紋認証センサーも組み込んでいる。後者は本体がプラスチック製で、カラフルな本体カラーをそろえている。

だが、これらはいずれも事前報道の内容と同じで、新機軸はなかったと言われている。

アップルは、2007年に初代アイフォーンを市場投入し、世界のスマートフォン市場を変えたが、今は韓国サムスン電子に市場シェアを奪われている。そうした中、同社がどのような新製品を発表するのか注目されていた。

米メディア「段階的な性能向上」を指摘

実はこのイベントの前日に、米CNNが興味深い記事を掲載していた。記事のタイトルは「新しいアイフォーン登場も、アップルには他社に追いつくべきことがある」で、最近のアップル製品に新機軸が見られないことを憂慮している。

この記事はイベント前日に掲載されたため、新型アイフォーンの情報はこれまでの噂を基に書かれている。だがここで述べられている内容は今回発表されたものと大きく変わらなかった。

そうした上で、記事は、アップルのユーザーは他社製端末にできて、自分の端末にできないものがあることに気づき始めたと指摘している。今のアップル製品には、音声アシスタント機能「シリ(Siri)」が登場したときのような“驚きの要素”がないのだという。

シリは、スティーブ・ジョブズ前最高経営責任者(CEO)生前最後のアイフォーンとなった「4S」に初めて搭載された機能。

アイフォーンではそれ以来、プロセッサーやバッテリー、カメラといった機能などが向上されたが、それらは段階的なアップグレードにすぎず、シリのような驚きはないと記事は指摘している。

アップルには「ヒーロー製品」が必要

記事では米市場調査会社、ガートナーのアナリストの見解も紹介している。それによると、アップルにはかつてあったようなライバルとの圧倒的な力の差が必要と考えている人が多いという。そのためにはありふれた改良ではなく、慣例にとらわれない発想が必要だと指摘している。

イノベーションの速度が鈍化している今、アップルはスマートフォンを市場シェア獲得のための製品と位置付け、新しい分野でヒーローとなる製品を作り出す必要があるという。

CNNの記事は次のような文章で締めくくっている。

「アイフォーンが影響力のない製品と見なされるテクノロジー業界を想像するのは難しい。だからこそ皆が10日のイベントでステージに立つティム・クックCEOに注目しているのだ」

さて、結果はどうだっただろうか。「iPhone 5s」は64ビットの新型プロセッサー「A7」を搭載し、処理性能が前モデルの2倍になった。「M7」と呼ぶユーザーの動作情報を処理するモーショントラッキング専用プロセッサーも備わっている。カメラのフラッシュも改良され、1000以上の組み合わせで色と彩度を調節する機能を持つという。

だが、やはりこれらは単にスペックの向上にすぎないと言えるのかもしれない。

ガートナーのアナリストによると、新しいヒーロー製品となる可能性が高いのはアップルが各国で商標登録を出願したと言われている腕時計型端末「iWatch」。残念ながら今回のイベントでこのiWatchは登場しなかった。

JBpress:2013年9月12日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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