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アップルがまもなく「ネットラジオ」発表と米メディア、膨大な数のiOSユーザー 競合サービスの脅威に

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー

米ニューヨーク・タイムズや米ウォールストリート・ジャーナル、米シーネットなど複数の米メディアの報道によると、米アップルはインターネットラジオのサービスを開始すべく大手レコード会社と協議を行っているという。

6月2日の日曜日にアップルは、ワーナー・ミュージック・グループとその傘下の音楽出版社、ワーナー・チャペル・ミュージックとの間でライセンス契約を締結した。

またユニバーサル・ミュージック・グループとは5月に契約を締結しており、現在傘下の音楽出版社と協議中。

一方でアップルは、ソニー・ミュージックエンタテインメントとその音楽出版部門、ソニーATVミュージックパブリッシングとも協議を進めていると米メディアは伝えている。

アップルは6月10日に米サンフランシスコで「世界開発者会議(WWDC)」を開催する予定だが、早ければこの会場で新サービスを発表するもよう。だがこれらレコード会社との交渉がすべてまとまらなければ、発表は先送りになるとも見られている。

無料の聴き放題サービスを展開へ

同社による聴き放題の音楽配信サービスについては、昨年9月にウォールストリート・ジャーナルなどの海外メディアが伝えていたが、これまで交渉は難航していたという。今回の報道によると、アップルは広告ベースで運営する無料のサービスを立ち上げる計画で、米国で普及しているパンドラ・メディアのようなサービスと同様の機能を提供する。

ウォールストリート・ジャーナルなどの報道によると、アップルとレコード会社との協議がこれまで進まなかった理由は、(1)広告収入の分配率、(2)最低保証額、(3)広告収入分配の開始時期などが決まらなかったからだという。

このうち(1)については、競合のパンドラが広告収入の4%をレコード会社に支払っているのに対し、今回ワーナー・ミュージックはアップルから10%を受け取ることで合意した。

また(2)は、アップルがサービス開始当初に広告展開しない場合でも、レコード会社が一定の金額を受け取れるようにするという取り決め。(3)については、サービスの利用者数が一定の規模に達するまで広告収入を分配しないとアップルが計画しているため、その規模や期間がどれくらいになるかという取り決めという。

今回上記の最低保証額や収入分配時期については報じられていないが、いずれにしても他のレコード会社もワーナー・ミュージックと同様の好条件を求めてアップルと交渉を進めているようだ。

世界最大の音楽小売業者がなぜ無料サービス?

アップルと言えば、アイチューンズストア(iTunes Store)における音楽の小売り事業が世界最大規模と言われ、同社の地位は揺るぎない。そんな同社がなぜこうした無料サービスを展開するのかと不思議に感じられるが、その背景には前述のパンドラのようなサービスが台頭していることがあるようだ。

パンドラのサービスでは、利用者の好みのアーティストや曲目に似た傾向の音楽を探し出してストリーミング再生する。聴けば聴くほど利用者の好みに合った音楽が配信されるようになるというもので、こうした仕組みが受けて利用者数は増大しているという。

またパンドラのサービスはアイチューンズストアと連携しており、現在流れている楽曲が気に入った場合、その場で購入できるという機能もある。アップルも同様の仕組みを自社サービスに取り入れて、楽曲販売を伸ばせると考えているようだ。

アップルの強みは、「アイフォーン(iPhone)」「アイポッド(iPod)」「アイパッド(iPad)」といった自社端末を持っていること。

実はパンドラもこれらのiOS端末向けのアプリを用意している。だが、その膨大な数のユーザーがアップルのサービスを利用すれば、パンドラという企業は成長が止まるばかりでなく、既存顧客も奪われかねない事態に陥ると指摘されている。

JBpress:2013年6月4日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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