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「北朝鮮インチキ病院で電気ショック」を受けたアフリカの高校生の苦しみ

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

北朝鮮が外貨稼ぎの一環として、アフリカ諸国に医師を派遣するプロジェクトを進めていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

平壌の情報筋は、モザンビーク、ナイジェリアに派遣する200人の医師を選抜する作業が今月から行われていると伝えた。北朝鮮から海外に派遣される労働者は主に中国とロシアに派遣される場合が多い。

(参考記事:美貌の北朝鮮ウェイトレス、ネットで人気爆発

一方で別の情報筋によると、医師の場合はアフリカに派遣される者が最も多いという。その理由を情報筋は次のように明かした。

「低開発国は決済手段が主に現金で、病院も多くなく、医療費は言い値で払ってもらえる。(国連安全保障理事会の)対北朝鮮制裁にもひっかからず収益も高い」

「アフリカは、患者の手術で医療事故が発生しても、法的に責任を取らせるシステムが整備されておらず、外貨稼ぎに大きな支障がないことも(派遣先選びの)決め手となった」

北朝鮮は、アフリカでかつて行っていた「インチキ医療」を再開しようとしているのかもしれない。怒れるアフリカの世論で追い出された過去を忘却してしまっているのではないだろうか。

2016年、タンザニアの首都ダル・エス・サラームにあった北朝鮮病院は、慢性的な咳に苦しむ高校生に、「お灸」と「カッピング」を施し、非常に高価な正体不明の北朝鮮製の薬を処方した。現地の二パシェ紙は、北朝鮮の医師は患者の診察や検査もせずに、電気ショックを与えたと報じた。ある男性は長期間の「インチキ医療」を受けても一向に治らず、結核で死にかかったという。

かつては天才サッカー少年と言われた息子のやつれきった姿に怒った父親は、病院を相手取って訴訟に出る姿勢を示した。

この件ではタンザニア政府も激怒。医師免許も就業ビザもなしに医療行為を行っていたこと、謎の医療機器や成分表示のない謎の医薬品を使っていたことなどを理由に、閉鎖命令を下した。

また、「アフリカは現金決済」というのもカビの生えた情報だ。

ナイジェリア中央銀行は2022年11月、キャッシュレス社会を目指すとして、紙幣を新しいものへと切り替えると同時に、デジタル通貨の発行を開始した。他のアフリカ諸国でも、日本のPaypayのようなQRコード決済が驚くべき速さで普及しており、タンザニアでは2023年6月時点で、全人口の7割以上がキャッシュレス決済のユーザーとなっている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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