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北朝鮮のタワマンがもうすぐ「名古屋超え」か…闇金業者などが投資

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

 北朝鮮の新興富裕層(ニューリッチ)である「トンジュ(金主)」は、その名が示す通り、闇両替や闇金融で財産を築いた人々を指す。

 儲け話の少ない北朝鮮国内でもさらに儲けたいという彼らの思惑と、住宅建設を推進して成果として示したいという政府の思惑が合致した結果、政府はトンジュから投資を募り、得た資金で住宅建設を行い、その見返りとして住宅を渡すという形式が成り立った。

 しかし、新型コロナウイルスの世界的大流行のダメージは彼らを直撃した。国境の閉鎖により合法、非合法の貿易がストップし、市場経済化して中国依存度が高い北朝鮮の経済そのものを揺さぶり、没落するトンジュが続出した。

 また、市場経済化抑制、旧来の社会主義計画経済への回帰という政府の政策も彼らを苦しめた。

 コロナ明けの今、生き残ったトンジュの社会的地位はどんどん高まり、彼らを取り巻く状況は大きく変化したという。デイリーNKの内部情報筋が伝えた。

 コロナ前は、政府幹部や建築担当者とコネを築き、投資案件を自分のものにしようとするトンジュたちの間で激しい競争が起きていた。ところが、コロナの影響を受けて、資金力の豊富なトンジュの数が少なくなった。希少性が高まった分、今度はなんとか投資を取り付けようと、建築会社の社長や幹部が自分たちだけに投資してほしいと、トンジュのもとに日参して頼み込むようになった。

(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故

 住宅不足は首都・平壌と地方とを問わず深刻だが、金正恩総書記が打ち出した「平壌市5万世帯住宅建設」や「農村文化住宅建設」の方針も、このような現象を煽った。

「建設計画を是が非でも実行しなければならない平壌市人民委員会(市役所)や各種機関は、新たな投資家を探すのが主業務となっている。中には『投資額を増やすことが(朝鮮労働)党の政策執行を先導する愛国心の発現』と強調する機関もあるほど」(情報筋)

 金正恩氏が自ら旗を振るビッグプロジェクトだけあり、内閣からも資金が与えられるが、それだけでは工事が進められないため、トンジュから投資を取り付けて目標を達成しようとしているのだ。

 平壌市人民委員会は、「誰であろうと投資金さえあれば、国と機関が責任を持って他のどの地方機関よりも高い利益を保証する」と謳い、投資計画に関する詳しい説明を個別に説明し、資金を引きつけようと必死になっている。

 そんな状況に、トンジュはまんざらでもないようだ。

「以前、トンジュが住宅建設に投資するには、幹部とのコネを作らなければならず二重、三重にワイロを積んでいたが、今では向こうの方から投資してほしいと訪ねてくるので、『コロナ禍を耐えて生き延びた甲斐がある』と喝采を上げている」(情報筋)

 全国にネットワークを持ち、闇両替や闇送金、高利貸しなどで大金を動かしている金主たちは、今や元帥様(金正恩氏)の時代の首都および地方の住宅建設、国家対象建設に投資する大物として確実な存在となっていると情報筋は評した。

 現在、平壌市内で100メートルを超える建物は合計で20棟に達する。そのうち17棟は、金正恩氏の時代になって建てられた。最も高いのは、上述の「5万世帯住宅計画」の一環として建設された松花(ソンファ)通りの80階建てタワマンの高さ300メートルだ。

 600棟を超える東京には敵わないものの、ウィキペディアによれば名古屋市は32棟であり、これを抜くことも充分考えられる。貧しい暮らしを強いられる庶民を横目に、トンジュのカネで高級タワマンが立ち並ぶ都市を建設するのが、金正恩式の都市計画だろうか。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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