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金正恩住宅「テレビカメラの前で壁崩壊」の大惨事

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

 今年6月に開催された、朝鮮労働党中央委員会第8期第8回総会。そこで金正恩総書記らが示した人民経済(民生経済)発展の12の重要達成目標(朝鮮語では重要高地占領)のうちのひとつが、農村住宅の建設だ。

 住宅建設が首都・平壌にばかり集中にしたことに対する、地方からの不満を意識した政策である。

 北部の両江道(リャンガンド)でも、農村住宅の建設が推し進められているが、住民からは喜びどころか不安の声が上がっている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故

 両江道の情報筋によると、三水(サムス)郡の抱城里(ポソンリ)にあるファピョン協同農場では、本来は14日に予定されていた農村住宅の竣工式が、23日になってようやく行われた。

 その場では、農場員に入舎証(居住許可証)が手渡されたが、ほとんどの人が不安な気持ちを抱えながら入居したという。

「入居後に水道管が破裂したり、壁が崩れたりと、(問題を)すべて自分たちが補修しなければならないので、非常に心配だ」(情報筋)

 別の情報筋によると、竣工式が延期されたのは、農村住宅のお手本として建てられた家々で、手抜き工事の痕跡が多数発見されたからだ。

 この農場の住宅は、朝鮮労働党の農村住宅建設構想に基づき建てられたもので、100棟あまりある。しかし、建築規定は守られていなかった。真冬には氷点下30度まで下がるこの地域では土壌が凍りつくため、水道管の破損を防ぐには地中2メートル以上のところに埋設しなければならず、塩化ビニールの水道管の接続も慎重に行われなければならない。

 その結果、国営の朝鮮中央テレビや労働新聞の記者が取材にやって来た竣工式の開始直前に水道管が破裂し、家の壁が崩れるという大失態を招いてしまった。

 かくして、大慌てで補修をして改めて竣工式が行われた次第だが、補修もやっつけ仕事で行われたことは想像に難くない。

 これらの根本的な原因は「速度戦」にある。計画よりより早く、より多く達成することを美徳とするもので、1974年の朝鮮労働党中央委員会第5期第8回そう会で、社会主義労力競争の公式スローガンとして採択されたのが始まりだ。

 ところが、スピードや量ばかりを重視して、質を無視する結果を招き、手抜き工事や大量の不良品を生み出すこととなった。

 平屋建ての農村住宅が崩壊するだけならまだしも、80階建てのタワマンでも、速度戦による手抜き工事の問題が指摘されている。金正恩氏ご自慢のタワマン団地が、音を立てて崩れ去ることは、決してありえない話ではないのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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