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「ルール違反」の女性を吊し上げ…北朝鮮の街頭ファッションチェック

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
服装チェックに引っかかり連行された北朝鮮の女性(デイリーNK)

 北朝鮮の人々が常に胸に付けている肖像徽章――いわゆる金日成バッジ。外出時には欠かせないもののように思えるが、実際のところ必ずしもそうではなく、付けていない人も少なくないという。

 バッジが大切にされていたのは昔の話。その後、市場で売り払って現金化する人が続出したが、今ではもはや、その価値すらない。

 金銭的な価値はなくとも、持っていなければ問題になる。抜き打ち的に取り締まりが行われるからだ。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、最近になって清津(チョンジン)市内の路上で、バッジを付けているかを含めた服装検査が強化されたと伝えた。

 青年糾察隊(取り締まり班)は、道の至るところに立って、通りかかった若者のバッジと服装をチェックする。バッジを付けていなかっったり、社会主義生活様式にそぐわないとされる服装をしていたりすれば、取り締まりの対象となる。ただ、このような服装件は今に始まったことではない。

 以前から行われてはいたものの、最近に入って非常に厳しくなったというのだ。

 まず、摘発された若者は、農場に送って強制労働の処分を下す。深刻な農村の労働力不足を補うために、わざと検査を厳しくして摘発者を増やしているようだ。だが、処罰はこれだけではない。

(参考記事:女子大生40人が犠牲…北朝鮮幹部「鬼畜行為」で見せしめ

 職場や学校などに通報して、思想闘争会議の舞台に上げる。つまり、つるし上げにするということだ。かつては、本当にひどい場合に限ってこのような手法が使われたが、今では頻繁に行われている。

「かつて、このような取り締まりに引っかかっても、青年同盟に呼び出されて批判書を書くだけで済まされたが、最近では所属する機関で思想闘争会議を開いて、公開的に批判し、恥をかかせる」(情報筋)

 先月30日には、市内の30代の女性労働者が、ベルボトムを穿いていたというだけで青年糾察隊に摘発され、翌日には職場に通報された。今月3日に、職場で思想闘争会議が開かれ、女性には集中的な批判が浴びせかけられた。

 ちなみに、北朝鮮では女性がズボンを穿くことは好ましからざる風潮だとして、禁止されていた時期があった。女性が自転車に乗ることも許されていなかった。

 国内の状況が緊迫すると、締め付けを強化して乗り切ろうとするのが、北朝鮮当局のやり方だが、国民のファッションにまで口出ししようとするのは、今の北朝鮮の人々には受け入れられず、強い不満を生むばかりだ。

 ちなみに、取り締まる側の青年糾察隊だが、高級中学校(高校)の生徒や大学生が参加させられ、取り締まりの結果を報告しなければならない。報告書に何も書かれていなければ、サボっていたとみなされるため、通行人に言いがかりをつけて取り締まり、点数稼ぎをするのだという。そうしたやり方にも批判の声が高まっている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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