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【北朝鮮幹部インタビュー】ロシアに武器輸出して小麦粉と原油を受け取った

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の兵士(写真:ロイター/アフロ)

 米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は22日、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」に、北朝鮮が兵器を納入したと発表した。ウクライナの戦場で使うための携帯型ミサイルやロケット砲だという。

 以前から取りざたされてきたこうした疑惑を巡り、北朝鮮は繰り返し「今までも武器取引はなく、今後もない」と否定している。

 これについて韓国デイリーNK取材班は、北朝鮮の高位幹部とのインタビューを行った。インタビュー方法の詳細を明かすことはできないが、韓国デイリーNKは中国キャリアの携帯電話を密かに所持する北朝鮮国内の協力者などを通じ、情報収集を行ってきた。

 高位幹部は、北東部の羅津(ラジン)港周辺にある国家保衛省(秘密警察)管轄の10号哨所(検問所)の人員を夜間に5〜6時間撤収させた上で、同省と軍需工業部の最低限の人員だけで、武器の船積みを行ったと証言している。

(参考記事:「ロシアの勝利で終わる。我々も韓国を攻撃できる」北朝鮮当局が主張

 また、出港日には半日ほど、港から10キロ以内の地域を完全に立入禁止にしたとしている。

 なお国防省は、国内の軍需工場に砲弾の追加生産を指示したとデイリーNKは報じたが、これらは輸出に回されず、古くなった武器をロシアに提供し、その穴埋めを新たに生産した武器で行ったとのことだ。これは、新品の武器は輸出しないという故金日成主席の遺訓に基づいたものと思われる。

 以下はこの高位幹部との一問一答。

米国防総省は、北朝鮮が中東や北アフリカ諸国への輸出を装い、ロシアのウクライナ侵攻に相当量の砲弾を供給していると明らかにしたが、第三国を経て武器を供給しているのか?

北朝鮮の高位幹部(以下A):直接送ればいいのに、なぜ中東やアフリカを経由させる必要があるのか。米国は観測気球として、自分たちが収集した情報を確認するために、わが国(北朝鮮)が中東やアフリカに送ると偽ってロシアに武器を送っているという間違った情報を意図的に出したのか、あるいはわが国がロシアに提供したという確実な証拠が掴めなかったのだろう。だからわが国も、ロシアと武器取引をしたことはないと堂々と否定できるのではないか。

北朝鮮当局は今まで数回、米国が指摘したロシアとの武器取引説を否定しており、先月には(北朝鮮)国防省軍事対外事業局の副局長が談話で「われわれはロシアと『武器取引』をしたことがない」と主張し、9月にも国防省装備総局の副総局長が「ロシアに武器や弾薬を輸出したことはない」と主張した。当局者は虚偽の談話を出したのか?

A:国防省は基本的に武器輸出に直接関与する機関ではない。国防省の副局長にロシアとの武器取引を知られるほど、わが国(の機密維持)がいい加減だと思うのか。意図的に国防省の幹部に発表させたが、彼も知らないうちに進められたということだ。

ロシアに武器を提供した見返りに北朝鮮は何を受け取った?代金を外貨で受け取った?

A:現金では受け取っていない。ロシアも戦争のせいで資金が枯渇している。最初は、戦争が終われば米ドルで、今すぐならルーブルで支払うと提案したと聞いている。だが、価値のないルーブルを受け取ってどうするのか。戦争後に支払ってくれるのかどうかもわからない。そこで、今すぐ必要な物資で受け取ることにしたのだ。ロシアから入ってくる原油とガス、小麦粉は、ロシアと取引した結果だ。

韓米両国は、北朝鮮とロシアの違法取り引きの動向を監視しているとしているが、それでも北朝鮮はロシアとの武器取引を続けるのか?

A:わが国が騒ぎ立てることではない。米国はロシアに多くのスパイを送り込んでいるが、ロシアは鈍感過ぎる。だから情報を入手した米国に突っ込まれているのだ。ロシアとの武器取引を続けるか、正確なことは知らない。上(金正恩総書記)から指示が下されれば、いつでもやる。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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