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「何をされるかわからない」北朝鮮の”美人支配人”が恐れた密室行為

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩夫妻とモランボン楽団(朝鮮中央テレビ)

 朝鮮日報など韓国メディアの報道によれば、中央アジアのウズベキスタンの首都・タシュケントにある北朝鮮レストランの女性従業員5人が脱北して韓国入りしたという。

 米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の続報によると、5人のうち1人は5月、もう1人は6月、残りの3人は8月に脱北したとされる。さらに、RFAの取材に応じたタシュケント在住の複数の韓国人の証言によると、最後に発った3人には同店の支配人が含まれていたとのことだ。

 美人ウェイトレスが歌や踊りを披露することで有名な海外の北朝鮮レストランは、同国の重要な外貨獲得手段だ。ウェイトレスは概ね20代の女性たちだが、支配人は、そこから昇進したベテランだったりする。

 この店の支配人はホールでのサービングも行っていたというから、やはりウェイトレス出身なのだろう。

 彼女は脱北前、帰国したら「何をされるかわからない」と不安を語っていたようだ。

 現地在住の韓国人はRFAに対し、「支配人は5月と6月に従業員らが脱北してしまったことで、責任を問われるのを恐れている様子だった」とし、「8月に(北朝鮮に)帰国することになりそうだ」「帰国すれば取り調べが待っている」という話を、複数の韓国人にしていたと伝えた。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 密室での「恐怖の取り調べ」を担当するのは、国家保衛省の要員たちだ。秘密警察である保衛省は、金正恩体制の恐怖政治を象徴する存在だ。ベテランの支配人ならば年齢的にも、保衛省が主導した様々な残酷な出来事について見聞きしているはずだ。

 最初の従業員が5月に脱北してから自身の身の振り方を決めるまでの数カ月間、支配人は生きた心地がしなかったことだろう。

 北朝鮮は2020年1月に新型コロナウイルスの流入防止のために国境を封鎖し、海外駐在の自国民の帰国すら認めていない。外国での滞在が長くなった人々は、現地にいる韓国人や様々な国の人々と、自然と交流が増えているのかもしれない。

 彼女から、帰国後の不安を聞いた韓国人の一部が、「脱北を決断すべきだ」と助言した可能性もある。

 海外での滞在が長引くほど、こうした脱北事例は増えるかもしれない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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