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「凍った地面で這い回り」北朝鮮女性兵士の理不尽な苦痛

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の兵士(写真:ロイター/アフロ)

 ロシアによるウクライナ侵略の報道を見るにつけ、北朝鮮の巨大で疲弊した軍事組織は、果たして有事にどれほど役に立つのかという疑問が強まる。

 北朝鮮の正規軍である朝鮮人民軍は兵力約120万人と見られており、さらに数百万の予備役と準軍事組織が控えている。

 準軍事組織の中で最も規模が大きいのは、約350万人を擁すると言われる労農赤衛軍だ。正規軍ですら、装備の老朽化と訓練不足、食糧難による兵士の栄養状態悪化が伝えられているが、労農赤衛軍はどうか。その実態の一端について、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えている。

 北朝鮮の現地情報筋がRFAに伝えたところでは、労農赤衛軍は1月、正規軍の動きに合わせて冬季訓練を行った。労農赤衛軍には、満17~30歳の未婚女性労働者と、別の準軍事組織である教導隊に属さない17~60歳の男性労働者が属している。

 今年の訓練に参加した両江道(リャンガンド)の住民はRFAに対し、訓練の厳しさについて次のように語っている。

「すべての訓練が苦しかったが、いちばんつらかったのは、凍結した地面を這いまわる匍匐前進と、何時間もうつ伏せになっていなければならない射撃訓練だった」。これは、正規軍で10年に及ぶ兵役を終えた経験者ですらつらいものだったという。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

 それだけに、全く経験のない若い女性兵士などはたまらない。「気温がマイナス15~20度にもなる寒さの中、一日中野外で訓練が行われた。私が所属した小隊だけでも耳や指に凍傷を負った女性隊員が6人もいた」と、この住民は述べている。

 北朝鮮の軍事組織において、女性たちは様々な苦痛にさらされているが、民間軍事組織においても、状況は大きく変わらないのかもしれない。

 では、こうした厳しい訓練を行う労農赤衛軍の練度は高いのかというと、そうでもなさそうだ。今年は、先軍政治を掲げた金正日総書記の生誕80周年に当たるため、中央の監督が特に厳しかったことが背景にあるという。

 そうでもなければ例年、お金や物資を所属部隊に寄付する代わり、訓練から除外してもらう者も相当数いたという。

 つまり、厳しい訓練は軍事的な目的から行われたのではなく、上層部に対する得点稼ぎに過ぎないということだ。

 そんな訓練で凍傷まで負わされた兵士らが、高い国防意識を持つようになるとは思えない。北朝鮮の民間軍事組織はやはり、壮大な無駄と見るべきだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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