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北朝鮮警察に「キレた女性」の集団が投石…多数が刑務所送りに

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
両江道恵山市の市場(デイリーNK=カン・ドンワン)

 毎年この季節になると、中国大陸からやってくる黄砂。朝鮮半島での被害は、日本よりもかなりひどい。人々の健康に影響を与えるのはもちろんのこと、航空機の離着陸も妨げられるほどだ。大気汚染指数(AQI)も中国ほどではないものの、健康によくないとされる150を超えることもしばしばだ。(※東京は50前後)

 北朝鮮北部の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)では、黄砂の被害を防ぐとの理由で4日、5日の両日、通行禁止令が出された。「黄砂に混じって新型コロナウイルスが流入するかもしれない」という科学的な裏付けのない説明がなされたが、これに多くの市民が強く反発していると、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

 今月5日。前日より黄砂が薄くなったことで、イナゴ商人(露天商)の女性たちが市内の恵新洞(へシンドン)の路上に集まった。すぐに安全員(警察官)が出動し、両者の間で口論が始まった。

 安全員は当初、「党が人民の健康のために通行禁止令を下した」「黄砂と共に飛んでくるコロナウイルスに感染すれば、あなたのみならず、全国にウイルスが広がる」などとやんわりと帰宅を促す程度だった。

 ちなみに当局は近年来、イナゴ商人に対する取り締まりを強化していたのだが、安全員のソフトな姿勢を見ると、取り締まりは以前と比べて緩和されている可能性が考えられる。

 イナゴ商人はその場を去ろうとせずに安全員に歯向かった。餅売りのチョンさん(30代)をはじめとするイナゴ商人たちは、「安全員のあなたも、子を持つ親の立場から考えてみろ」「黄砂ではなく、飢えて死にそうになっている、われわれの邪魔をするな」と反論。

(参考記事:激しい拷問に耐え続けた北朝鮮「レザーの女王」の壮絶な姿

 すると安全員は、労働鍛錬隊(軽犯罪者を収容する刑務所)送りを示唆しながら、早急に帰宅するように警告した。すると、イナゴ商人たちは安全員の服を掴んだり、石を投げたりして、激しく抵抗した。

 騒ぎを聞きつけた人々が集まり、人民班長(町内会長)が恵山市安全部(警察署)に通報した。空気の異変を察知した商人6人はその場から逃げたが、残りの5人は安全部に連行されてしまった。

 情報筋は「生活難がどれほど苦しければ、女性(商人)らが安全員に暴行までするのだろうか」と同情を示しつつ、5人が6ヶ月の労働鍛錬刑の処分を受けたことを伝えた。

 このような抗議活動や、安全員への暴行は決して珍しいことではなく、しばしば伝えられている。やはり警官隊と乱闘になったイナゴ商人の女性ら30人が、労働鍛錬隊に送られたこともある。

 外部から眺めた印象と異なり、北朝鮮国民は決して、ロボットのようにお上の言うことにおとなしく従うような人々ではないのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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