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「豚のエサを食えというのか」金正恩の"特別配給"に国民激怒

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

 2月1日の旧正月に向けて、北朝鮮の鉱山では労働者に対して食糧配給が行われた。かつてはふんだんな配給が行われていたが、国際社会の制裁で輸出ができなくなったことに加え、一昨年1月からのコロナ鎖国で、遅配、欠配が続いていた。

 今回は久々の配給となったが、受け取った労働者からは不満の声が上がっている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

 両江道(リャンガンド)のとある鉱山で働く情報筋によると、旧正月を控えて、鉱山の後方部(補給担当部署)から労働者に対してトウモロコシが配給された。ここは国が重要視する鉱山だけあり、他の鉱山では考えられないほどの配給が行われてきたという。

 ところが、今回トウモロコシを受け取った労働者たちは、あまりの質の悪さに言葉を失うほどだったという。水気が多く、染み出した汁が凍りつき、そこにびっしりとカビが生えていたとのことだ。これでも、飢餓にあえぐ軍の末端兵士と比べればいく分マシとは言え、それで納得できるものでもない。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

 情報筋の家では、家族総出で、受け取ったトウモロコシの選別作業を行ったが、中には受け取ったトウモロコシの3分の1にカビが生え、豚のエサに回さざるをえなかった家もあったとのことだ。

 当然、労働者は不満たらたらで、「こんなものを食えとよこしたのか」との声が上がったという。鉱山の後方部は「郡の糧政事業所から受け取ったものを、そのまま配給したに過ぎない」としつつも、頭を下げたとのことだ。

 こんな事になった原因について、情報筋は輸送時に貨物列車の無蓋車(屋根のない列車)を使ったためではないかと見ている。

「屋根のない貨物列車でトウモロコシを輸送し、途中で雪に当たって凍ったと言われれば、さもありなんと思う。問題はこんなことが一二度ではないことだ」

 頻繁な停電で貨物列車は遅れ、届いたころにはすっかり傷んでいる、などといった事例は今までも何度も報告されている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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